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焦りと願い③


         ▼△▼△▼△▼△▼



 俺は、三日月村に落ち着いてからも、毎朝の剣の素振りをやり続けている。あの優しい剣士から教わった剣術の基本の型を繰り返すのだ。彼の形見の魔法剣を使って。

 

 上段から右袈裟斬り、左から薙ぎ払い、右下段から逆袈裟斬り、正面からの突き、上段から左袈裟斬り、右からの薙ぎ払い、左下段からの逆袈裟斬り、正面からの突き――


 この動きを何度も繰り返していく。



           ♢



 俺の隣では、白髪、赤瞳の少女ナギが、俺と同じように剣の素振りをしていた。こちらは、カヒコの形見のショートソードを使っている。


 まだまだ、剣の重みに振り回されて、思うようには剣を扱えてはいない。しかし、汗で額に髪を張り付かせながら、必死に剣を振るう。


 上段から右袈裟斬り、左から薙ぎ払い、右下段から逆袈裟斬り、正面からの突き、上段から左袈裟斬り、右からの薙ぎ払い、左下段からの逆袈裟斬り、正面からの突き――



 13歳の少女は腕が上がらず、握力もなくなり、踏み込む足は震えている。すでに、剣を持つのすら辛くなっているが、その根性で剣を振り続けていた。



           ♢



 素振りが一段落すると、次に俺は、石投げの練習に入る。ただ投げるだけではなく、今は新しいスキル【操作】を意識して、手で投げた後の軌道を変化させる事を意識している。徐々に思ったように曲げることができるようになってきているので、スキルの使い方の認識は、間違いではなかったようだ。


 木に括り付けた的を目掛け、何度も石をぶつけている。いつかは、手で投げなくても、スキルの力で色々な物を動かせるようにしたい。



           ♢



 ナギは、素振りを終え、すでに握力が無くなっている為、とてもではないが、俺と一緒に石投げの練習はできない。

 そこで、スキル【操り人形】を使えるようにする為、軽いリボンをスキルで動かす練習をしている。


 これは、魔術師のライトの提案で、ダンジョン=レッチェアームでの経験から考えたスキルの練習方法である。

 ナギのこのスキルは、魔力を通した糸などを使って対象物を動かすスキルではないかと、ライトは考察したのだ。【操り人形】というスキルの名前からも、おそらくそうだろうと言うことで、ならば、糸を操る為の練習が良いのではないかと提案されたのだ。


 実際、軽いリボンを色々と形を変えたり、宙に浮かべたりと、すでにナギはできるようにはなっていた。ただし、かなりの集中力が必要な為、長時間、リボンを操作するまでには至っていない。


 この練習方法は、同じスキルを持つ少女、ナミにも日課としてやらせている。おそらく必死で練習を続けているだろう。



 ナギは、半年先に冒険者になったナミを姉妹のように思ってはいるが、同じスキルを持ち、同い年、――そして同じ人を好きになっているかもしれない……、そんなライバルには絶対に負けたくないのだ。


 ナギは震える膝を叩き、気合いを入れて立ち上がった。自分は、冒険に使える才能は、授かることが出来なかった。だから目指すものになる為、少しでも早く、スキルを身につけなくてはならないと、必死に訓練を繰り返すのであった。

 


           ♢



 俺の日課の最後は、アメワから借りた魔法書を読んで終わる。未だに魔法を使うことはできていないのだが、魔力を操るという感覚がわかるようになってきた。スキル【操作】が発現してから顕著になってきているので、スキルの影響もあるのかもしれないが。


 以前は自分の魔力というものを感じる事ができずにいたのだが、お腹の奥の方というか、そこから全身に熱い畝りのようなものが循環しているのを感じるようになった。ライトやアメワに聴いても、そういう感覚はないと言うので、俺だけの感覚かもしれないけど……。

 


           ♢



 ナギは、ヒロに借りたマル秘手帳を書き写しながら、ヒロに色々と質問する。この時間は、ヒロを独り占めしているようで嬉しい。

 ただ、ひとつ問題があった……。ヒロの手帳に書かれている文字は、所々、ナギが知らない、恐らくこの世界の文字ではないものが使われているのだ。


「ヒロ兄、これ暗号? 全く読めないんだけど?」


「えっ!? 普通に書いたつもりなんだけど……。やばっ!? 俺の世界の文字で書いてたんだっけ……。」


「俺の世界って? 何言ってるの?」


「ごめんごめん、実はそれ、俺の編み出した暗号なんだ。わからない暗号はちゃんと教えていくから、俺に聴いてね。」


 ヒロ兄は、時々、自分を俺と呼ぶことがある。なんか、不思議な感じ。私が歳下だからかな。でも、こうやって過ごす、2人だけの時間にとても幸せを感じる。



           ♢



 彼女は、レンジャーというクラスを選んだ。なんとかパーティーの役に立てるように考えた事が理由だとは思うが、覚えるべき知識は非常に多い。そう思って俺のマル秘手帳を貸したんだけど、ちょっと失敗だった。

 前世の記憶を思い出してすぐの頃、前世と今世の記憶がごちゃごちゃで、速記が必要な場面などで、つい前世で使っていた文字を使ってしまいがちだったのだ。

 自分が読むのであれば気にならなかったけど、ナギやナミに見せる時は気をつけなくては……。



           ♢


 

『ふぁ〜。2人とも毎日よくやるわね〜っ! おちおち寝てもいられないわね。ちょっとナギ、ヒロに近づきすぎっ! 離れなさい!』



 僕らの家の窓から、リ〜ン♪と、優しい羽音を響かせ、欠伸をしながら、可愛らしい妖精が飛び出してきて、開口一番、文句を言いながら、俺とナギの間に割り込んでくる。


「おはよう、ベルさん。」



 今日も、新しい一日が始まった――



 なんと150話まで書き進める事ができました! みなさん、これからも少しずつ変わっていく主人公たちの応援をよろしくお願いします!

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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