夕食会議
5人で囲む食卓は、お祝いの席になった。
「ナギちゃんの冒険者としての第一歩に乾杯!」
この世界、飲酒に対する年齢制限はない。ただ、13歳という年齢が、大人の仲間入りという認識がある為か、どの家庭でも13歳にお酒デビューというのが常識のようだ。
成人扱いと言うものの、ナギには、まだ酒は早いと思うのだが、すでに甘い葡萄酒を渡されている。
「ありがと〜! これで私も大人の女性よ! ヒロ兄、もう子供扱いとかしないでよね!」
帰り道の魔晶のやり取りから、なんだか知らないけど俺に対する当たりが強く感じるが、これ以上ヘソを曲げられても困るため、当たり障りの無いように、言葉を選んで応える。
「わかったよ。ナギは立派な大人だよ。」
「立派な大人じゃなくて、大人のじょ、せ、い! 大人の女性だってばっ!」
このやり取りの何が可笑しいのか、ライトとソーンは口を抑えて、必死に笑いを堪えている。ナギはそれに気づくと、ますます顔を赤くして騒ぎ始めた。
「ちょっと! ライトさんも、ソーンさんも何が可笑しいのよ! 失礼しちゃう!」
まぁまぁと、笑いを堪えながらソーンがナギの前に小さな箱を置く。
「私とライトからのお祝いよ。大事に使ってね。」
誕生日のプレゼントが貰えるなんて、思ってもいなかったのか、ナギは両手で口を抑えて驚いている。
「これからは、僕らと一緒に冒険に行くようになるからね。冒険に出かけても使えるようにと、ソーンが選んでくれたんだよ。」
ナギが箱を開けると、中には赤いリボンのついたバレッタだった。
「あなたの綺麗な白い髪に、赤はきっと映えると思うの。良かったら使ってね。」
ナギは、そのストレートの白髪を肩まで伸ばしている。ただ、これからは激しい戦闘なども覚悟しなくてはならないので、ソーンが気を利かせてくれたのだろう。年長組の2人の気遣いには、頭がさがる。
「――ありがとう。大事にします。」
自らの髪を後ろでまとめると、その場で早速バレッタを着ける。白い髪に咲く花のように、赤いリボンが見事に映えた。
「可愛いよ。似合ってる。」
そんな俺の言葉に、一瞬微笑んだと思うと、すぐに目を細めて俺を睨む。
「だから、大人の女性なんだから、そこは、可愛い、じゃなくて綺麗だよ、でしょ! まったく。」
はぁ、素直な感想のつもりが、なんだかお気に召さなかったご様子だ。俺は、頭の上に両手を広げて、服従のポーズ。もう、お手上げです。
その姿を見たライトとソーンは、今度こそ堪えきれずに笑っていた。
♢
「そうか、第二の才能はやっぱり上書きされたままだったのか……。なら、その才能を活かす方法を考えていかなくちゃね。」
冒険者ギルドでのやり取りを報告すると、【考察】のスキルを持つ歴史学者は思案を始めた。
▼
クラス レンジャー
才能1 グロウ
(花栽培)
才能2 ◾️◾️◾️/パペット
(糸操り)
スキル 栽培 LV1
操り人形 LV1
血操 LV1
▲
これが現状のナギのステータスである。
「第2の才能が黒塗りで隠されていたという事は、元々ナギちゃんに授けられる予定だった第2の才能があったはずなんだろうけどね。」
まぁ、現実には今ある才能、スキルを使って冒険していくしかないのだ。将来的に、俺のように二つの才能が使えるようになるかもしれないし。
「とりあえず、【血操】というスキルは、吸血鬼王に使い方を教えてもらいたいものだね。」
未だに復活できていないのか、まだ吸血鬼王とは再会できていない。機会を作って、再びダンジョン=レッチェアームに行かなくてはならないな。彼に会う理由が一つ増えた。
「【操り人形】というスキルは、ナギちゃんがヒルコの仮面をつけて操られていた時、ケインたちを魔力を通した糸で操っていた能力だと思うのだけど、現状使い方の検討がつかない。」
そう、あの時、ケインさん達は俺たちの目には見えない糸で操られていた。あの技術は、本人が理解しない限り使いこなすことはできないだろう。俺のスキル【アンチ】のように。
「この【操り人形】というスキルについては、ナミちゃんにも上書きされているんだから、僕の方でもっと調べてみるよ。文献を色々と探してみるね。」
こうなると、ナギには、すぐに冒険に役立つ才能、スキルは見当たらない。基礎的な訓練を繰り返して、レンジャーとして活躍できる道を探るべきだろう。
「ナギ、僕の宝物の手帳をしばらく貸してあげるよ。一緒に勉強しながら、君にプレゼントした手帳に、自分なりにまとめていこう。」
「僕も冒険に必要な知識が乗ってる本を探しておくよ。大丈夫、少しずつ成長すればいいさ。」
「まぁ、私はボチボチ頑張るよ。絶対、みんなな役に立って見せるから……。それより、もう一つ凄い発表があるの! ね、ヒロ兄。」
先輩たちからのアドバイスに、神妙な面持ちで耳を傾けていたナギだったが、話が一段落した所で、まだ発表していなかった話を差し込んできた。
「なんと! ヒロ兄が第3の才能を授かりました!」
「「―――っ!?」」
やっぱり、驚くよね。まぁ、俺が一番驚いたんだから――
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