表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
144/456

連鎖の行方


           ♢



 俺たちは、冒険者ギルド前の公園まで戻ってきた。ナミとナギの2人には、水飲み場で少し待ってもらっている。ベルはポケットで眠ったままだ。



「久しぶりだね。よく僕の事を覚えていたね。」


 意識して、俺をいじめていた事と、彼がいじめられていた事についての話題を避けながら話しかけた。


「あ、あのナナシさん……。」


「今は、ヒロと名乗っているんだ。それに、確かマレットは僕より年上だったろ? さん付けでなんて呼ばなくてよいよ。」


 改めて名前を名乗り、ハーフドワーフの少年の話を待った。わざわざ、俺の姿を見つけて追いかけて来たのだ。何かしら、用事があるのかもしれない。



「……ナナシ……、じゃない、ヒロ……。あの……あのな!」


 覚悟が決まったのか、俺を正面に見据えて頭をさげる。


「ヒロ……、孤児院での事はすまなかった。俺は、いつもみんなから魔物の子供とか言われているお前が、自分よりも弱くて、情けない奴だからと思って、調子に乗っていたんだ……。」


 俺が黙って聞いていると、そこからは、さっきまで話すことを迷っていマレットが、今度は言葉が溢れてくるかのように話し出した。



「みんなと違うのは俺ではない。みんなと違う奴がここにいる。いつもいつも、俺はお前をイジメることで安心していたんだ……。」


「…………。」


「でも、ある日、お前が孤児院を飛び出して行った後、他のみんなから、今度は俺がみんなと何か違うと言い始めたんだ……。」


 そう、俺は知っている。人は自分より弱いものや、自分達と違うものを見つけると、途端に強くなる――



「いつの間にか、今度は俺がみんなからいじめられていた。腕っぷしでは負ける事は無いのに、一人になった途端、そんな事ではいじめからは抜け出せない事に気づいたんだ。そうすると、急に全然身体に力なんか入らなくなって、対抗することができなくなったんだよ……。」


 そう、俺は知っている。人は、その相手から反撃が無いとわかれば、ますます強くなるのだ。逆に、自分が弱いと感じると、途端に反抗できなくなる――


 

「でも、あの日、お前が言ってくれただろ。「負けるな。君は1人じゃない! お天道様はちゃんと見てるから。悪い事をすれば悪い事が。良い事をしていたらいい事が返ってくるんだ。だから、君はもう2度といじめる側にはなるんじゃないぞ!」って……。」


 ああ、確かに言ったっけ。

 いじめの連鎖という不条理に腹が立ったんだ。


 

「正直、あの時はすぐには理解できなかったんだ。でも、「僕はいじめを許さないっ!この子をいじめるなら、僕が相手になってやる!」って言われた時、ああ、俺にも味方がいたのか、と思えた。」


 あの時は、別に君の味方をしたわけじゃ無い。

 ただ、ただ、腹が立っていたんた。



「お前に、「君にはちゃんと助けてくれる人がいるよ。」と言われた時、そういうこともあるのかと思えたんだよ。」


 そんな、俺はそんな大層な気持ちで言ったわけでは無いんだよ……。



「ナナシ……俺につけられた名前はマレット。これって、『木槌』と言う意味さ。孤児院に捨てられていた、ハーフドワーフの俺のことを蔑んでつけられた名前なんだ。でも、今はそれでも気にならなくなった。」


 彼は、いつまでも黙っている俺を気にせずに喋り続ける。



「実は今、俺は魔晶職人の師匠のところで修行しているんだ。お前の言葉、お天道様は見ているって言葉。あの言葉を聞いてから、それまでの自分と決別して、職人の道を進む決意をしたんだ。頑張れば頑張った分、師匠は見ていてくれる。そうすれば、前に進めると信じて。」


 彼は熱のこもった目をしていた。


「それに、お前は、悪いことには悪いこと、良いことには良いことが帰ってくると言っていた。だから、あれ以来、俺は絶対に人を下に見ない。悪口を言わない。困っている人を見つけたら、できる限り助ける。そう決めたんだ。」



「………。」



「お前をいじめていた俺の事を、簡単に許して貰えるとは思ってはいないさ。俺だって、俺をいじめてた奴らを簡単に許すことなんかできないから。」



「………。」



「でも、お前に会えたら、絶対に謝りたいと思っていたんだ。そして、お前に感謝の気持ちを伝えたかった。俺は、お前の言葉に勇気を貰えて、そして救われた。ありがとう………。」


 そこまで言うと、膝に手をつくようにして、深く深く、頭を下げた。

 そして、徐にポケットに手を突っ込むと、赤い魔晶を取り出した。



「これは、俺が初めて師匠にちゃんと認めてもらえた魔晶なんだ。お前に出会えた時、もらって欲しかったんだ。まだまだ、未熟な腕だけど、これからもっと努力していい物を作ってみせる。」


「………。」



「だから、また俺が納得できる魔晶を作ることができたら、また受け取って欲しいんだ。俺にとってのの目標であり、そして俺にとっての英雄であるお前

に……。」



 そこまで、捲し立てるように言い切ると、まったく言葉が出せない俺に、自分が勤めている店の名前を告げて走り去っていった。「必ず店にも顔を出してくれよな。」と言いながら、何度も手を振りながら。


 俺は、最後まで何も言えなかった。


 いじめていた側の連中は、いつの間にかそんな事を忘れてしまい、下手をすると良い思い出にまでしてしまうかもしれない。


 しかし、いじめられていた事は、絶対に心の中から消えることは無いだろう。

 深く深く傷ついた心は、いつまでも傷跡が消えることは無いだろう。


 でも、癒される事はありえるのだろう――


 ハーフドワーフの少年からの心からの謝罪と、感謝の言葉は、確実に俺の心に刻み込まれたのだから。



『――良かったわね。だからいつも言ってるじゃない。あなたは幸せになれるって。』


 いつの間に目を覚ましていたのか、ポケットから這い出した優しい妖精は、俺の頬に自分の頬をそっと寄せて目を瞑った。


 

 今日は、なんて日だろう。色々な事がありすぎて、もうお腹いっぱなんだ――


 

 


楽しんで頂けましたら、ブックマークや評価をしていただけると励みになりますので、ぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ