第3の才能
「じゃあ、今度はヒロ兄の番だね!」
『――ちょっと待った〜っ!!』
ナミの言葉で俺が石板に魔力を流そうとすると、おしゃべり妖精が両手を広げて、待ったをかける。
『いつも、私が一番最後で、石板が疲れた所で私の才能判定するから、ちゃんと反応しないのよっ!』
石板が疲れるって……。
『だから、今日はヒロが一番最後にやりなさい! そして、石板が反応しない屈辱を味わうがいいわっ!!』
困り顔のフィリアを急かして、自分の前に才能判定用の石板を置かせる。『今日の私は一味違うのよ』、とドヤ顔で石板に手をかざすおしゃべり妖精。すると、ぼんやりと石板が光だし………
………すぐに光が消えてしまった。
感動のグータッチで、みんな盛り上がっていたというのに、見事に自分の世界引き込んで、みごとに雰囲気を変えてしまうおしゃべり妖精の力に、まさに脱帽である。 みんなを笑いの渦に巻き込んだ、おしゃべり妖精、改め、お笑い芸人は、お決まりのネタをこなした後、盛大にその場で膝をつき、崩れ落ちていた。
「……ごめんなさい、やっぱり、ベルさんじゃ手が小さすぎるのと、魔力が少なすぎて、判定できないみたい……。」
いつもと全く同じ台詞をフィリアさんに言われ、流石のおしゃべり妖精も、しばらく完全方針状態になって、立ち直るまでに時間がかかっていた。
♢
「じゃあ、お願いします。」
視線の端に、倒れ込んでいるおしゃべり妖精を見ながら、久しぶりに自分の才能判定を行う。石板に手をかざし、明るく光出した。
▼
クラス 精霊使い
才能1 アンチ/エンパシー
(反対、拒絶 対抗/共感、同情)
才能2 ダブル
(2重、2倍)
才能3 ムービング
(移動、動かす)
スキル 障壁 LV85
同調 LV14/複合 LV8
剣術 LV5
投石 LV6
採取 LV2
操作 LV1
▲
「――っ!?」
「――ヒ、ヒロ君……、三つ目の才能が……。」
「――うそ……、凄い……。」
「――伝説の英雄じゃん……。」
誰もが言葉を失っていた。もちろん、当事者の俺が一番驚いていたのだが……。
『――その者の行いにより、三つめの才能を授かることがある。三つ目の才能については、いつどんなタイミングで授かるかは決まっていない。もしかすると、授からないかもしれない。いや、授からない者の方が多いのだ――。』
自分自身がそれまでに積んだ徳や経験、努力の量になどによって授けられる可能性があるとだけ言われ、実際には第3の才能を授かる者などは、ほとんど生まれない。
そう、それこそ、物語にでてくる英雄くらいしか誰も知らない……。
「……どうしよ……、第3の才能でちゃった……。」
♢
しばらくの間、その場にいた全員が放心する事になり、沈黙が続いていたのだが、みんなより先に放心状態になっていたおしゃべり妖精が、誰よりも一歩早く立ち直って叫んだ。
『………ヒロ! おめでとうっ!! 』
おそらく、自分の才能判定の結果の事などは、すっかり忘れて、まるで自分の事のように、涙を流して飛び回って喜んでいる。
『だから言ったでしょ! 私があなたを導いてあげるって。――ヒロは、必ず幸せな道に進めるわ。私が道案内してあげるから――。』
そうだ、この優しい妖精は、いつでも俺を支えてくれている。こんなにも、俺の為に喜んでくれるのだ。
まるで自分の事のように喜び続けるベルのおかげで、その場の者達も正気に戻り始めた。
「「 ヒロ兄っ! おめでとうっ! 」」
2人の少女が声を揃えて祝福し、冒険者ギルドの受付嬢は拍手する。
「ヒロ君、おめでとう。この話、ギルドマスターに報告しても良いかしら? 勿論、個人情報だし、才能、スキルの内容についての詳細は発表しないけど、冒険者ギルドとしては、新しい第3の才能持ちの英雄として公表する事になると思うの。」
英雄扱いとか……、それはちょっと驚きなんだけど。ていうか、嫌われ者の俺が英雄? いや、無いでしょ。なんか悪い事が起きる気しかしない。
「フィリアさん、ギルドマスターに報告するのは良いのですが、公表は控えていただきたいのですが………。」
俺の言葉を聞いた少女達が騒めく。
「えっ? ヒロ兄、なんで?」
しかし、なるほどと、フィリアは冷静に答えた。
「そう。わかったわ。とりあえず、ギルドマスターを呼んでくるから、相談しましょ。」
そう言ってギルドマスターを呼びに、部屋を出ていった。
ついさっきまで大騒ぎしていたおしゃべり妖精は、涙を拭いて静かに俺の肩に座って寄り添ってくれている。それに変わって騒ぎ続けるのが、2人の少女達だ。
「ヒロ兄、英雄だよ? 憧れの英雄になれるんだよ?」
俺は、少し困った顔をして2人を諭しながらギルドマスターを待つ。それから少しして、サムギルド長が部屋に走り込んできた。
「――第3の才能が目覚めたんだって!?」
慌てた優男の登場に、やっと落ち着いてきた部屋が、また騒々しさに溢れることになった。さて、どうやって落ち着けようか――
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