みんなの為、あなたの為
「レンジャーって、ナギはそれでいいのかい?」
俺は想像していなかったナギの選択先に、思わず聞き返してしまった。
「レンジャーは、言ってしまえばパーティーの縁の下の力持ち的なポジションだ。正直、地味な役回りだよ? 」
そう、ユウも言っていた。
レンジャーの役割は、地味で目立たない。どのパーティーにも必ず居て欲しいポジションだが、日々のパーティー活動を支えるのが主な役割である。
地図作成や、サバイバル活動の運営、罠の設置や解除、採取や採掘といったものが主で、戦闘の際に派手な活躍を求められるわけではない。
どうしても冒険者の間では、戦闘で目立つクラスが人気があるし、知識と経験が必要である為、常に努力していかなくてはならない、大変なクラスなのだ。
「――いいの。レンジャーがいい。」
ナギは決意した表情をしている。
「――だって、ヒロ兄も言ったじゃない? ヒロ兄の知ってるもう一人の英雄は、レンジャーというクラスについて、様々な知識と技能でパーティーを支えていたんだって。勿論、戦う力を諦めた訳じゃないわよ。みんなを助けて、しかも自分も活躍してみせる。私は欲張りなんだ!」
さっきまで、涙を流していたとは思えない笑顔で、俺の得意のポーズを決め、白髪、赤瞳の少女が仁王立ちしている。
「あぁ、ナギばっかりずるい! 自分ばっかりみんなの為にとか言って! 私だってみんなの為に頑張ってるもんっ!」
負けずと俺に向かってサムズアップを決めて張り合う。こちらは黒髪、白瞳の少女。
2人から見事な私役立つ宣言を受け、それを否定する要素は一つもない。俺だって、みんなの為に頑張りたいと思っているのだから。
「なら、二人とも家に帰ったら勉強だな。『知識はその者の力である。』あれ?『知識はその者の武器である』だったかな? とにかく、やると決めたなら、しっかりとだ。」
「「 明日やろうは、馬鹿野郎! でしょ? 」」
二人揃って俺の口癖を口にする。あの優しい英雄と、優しい嫁さんが言っていた言葉。俺を奮い立たせる魔法の言葉だ。
「そうさ! 明日やろうは馬鹿野郎だ!」
少女2人に合わせて右手を差し出す。そのまま、拳を合わせて笑いあった。一歩乗り遅れたおしゃべり妖精は、三人の合わせた拳の上に立つ。
『私を忘れて盛り上がらないでちょうだい! あんた達は、私がしっかり教育してあげるんだからっ!』
そのとんでも宣言に、またみんなで笑い会うのであった。
♢
しばらく、笑いあった後、ナギは自らのクラスをレンジャーに設定した。これからの努力次第で、レンジャーに必要な技能が伸びていくことだろう。
俺は、自分の身体が、まだ17歳の身体であることを忘れ、二人の少女を我が娘でも観ているかのように錯覚していた。
自らが、前世で父親だった事を思い出しながら。
あぁ、俺が愛した俺の娘は、ちゃんと幸せに暮らせているだろうか。自らのやりたい事を見つける事ができただろうか。失敗を繰り返し、悲しんではいないだろうか。
今の俺には、誤った道に進まないようにアドバイスすることも、上手く出来たことを一緒に喜ぶことも、失敗したことを一緒に悲しむことも、本人に任せて見守ることも……、全部出来なくなってしまった……。
愛娘に愛情を注ぐということは、今はもうできないのだ。
後悔――
懺悔――
胸を締め付けるこの思い。
今は、どうすることもできない。
でも、今は、この世界にいて、この世界の仲間達と一緒に生きて行くのだ。ならば、今、目の前にいる少女たちの為に生きるという事にもなるのだ。
それこそ、誤った道に進まないようにアドバイスして、上手く出来たことを一緒に喜んで、失敗したことを一緒に悲しみ、本人に任せて見守りつづける。全部やってあげるのだ。
――君たちの行きたい道を進め!
自分には出来なかった事も、きっとこの子達ならやり遂げる。そう信じて疑わないのだ。この愛すべき仲間たちを――
⭐︎
⭐︎
―― 私を助けてくれた、あなたの為に! ――
彼女達の。その心の内に秘められた気持ちには気づかずに……。