上書き②
しばらく続いた俺へのお叱りも落ち着いた所で、やっと、ナミの才能判定にとりかかってくれた。
「ふふ〜ん、私は半年もヒロ兄と一緒に冒険してるからね〜。めっちゃ成長してるかも!」
悔しがるナギに見せつけるように、ナミは才能判定用の石板に魔力を流した。
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クラス 魔獣使い
才能1 キーパー
(動物飼育)
才能2 ◾️◾️◾️/パペット
(糸操り)
スキル 飼育 LV1
テイマー LV1
操り人形 LV1
獣体術 LV2
▲
黒髪、白瞳となった少女、ナミも、ヒルコの仮面に才能を上書きされた1人だ。第二の才能は、2人とも【パペット】というヒルコに上書きされた才能。やはり、この才能自体には変化は無いようだ。
それでも、すでに冒険を経験した者の心持ちは、新人の時とはだいぶ違うようだ。
「ナギ、見なさい。私のスキル、【獣体術】のレベルが2に上がってるでしょ! これが努力するって事よ。」
ふふん、と鼻をならし、ふだんナギに口で負けることが多いナミが胸を張る。
「――私だって、ブラドさんの眷属になって、【血操術】ってスキルもらったもん。ちゃんと使いこなしてみせるもん!」
「――ナギっ!」
口に人差し指を当てて、ナギを落ち着かせる。
「眷属って……? どういう事?」
聞き慣れない言葉に反応したフィリアが、ナギに問いかける。しかし、これに関しては、聞いた時点からその身に危険伴うかもしれない為、おいそれとは話せるものではない。
いつも俺たちを気にかけてくれているフィリアを危険な目に合わせる訳にはいかないのだ。
「――フィリアさん、この事については事情があって話せません。ごめんなさい。でも、心配しないでください。おかしな事をしているわけではないですから。」
たったこれだけの説明に、フィリアは納得していないようだが、こればかりは簡単には話せない。
俺は無理矢理に話題を変えた。
「ナミ! 【獣体術】のレベルアップおめでとう。日頃の練習の甲斐があったね。ナギ、お前もコツコツ積み重ねていけば、必ず目指す自分になれるはずだよ。頑張れっ!」
『そうよ、ヒロなんか、私と出会った頃なんて、亀みたいに丸まって、殴られ続ける事しかできなかったのよ! 亀のポーズとか言っちゃってね! ほんと格好悪いでしょ! ――それが、今は精霊使いになって、魔法の剣まで使うんだから。なんとかなるなる!』
くっ……、またこのおしゃべり妖精め……。俺の黒歴史をばらすなんて……。そりゃ、あの頃は戦う能力が皆無だったし、ただただ相手が諦めるのを待っての我慢比べしか出来なかったから……。
「え〜、何それウケる! ヒロ兄、かっこ悪っ!」
「亀のポーズとかネーミングセンス終わってるね〜! ヒロ兄、やばいって、それっ! 」
ほらほら……、やっぱりそうなった。
「ヒロ君、まだ12歳なのに、13歳って嘘ついて、冒険者になろうとしたしね〜。」
あ〜、フィリアさんまで俺の黒歴史をバラすなんて……。これ、絶対、さっきの話を内緒にした事への意趣返しだよ……。これは、またしばらく我慢し続けることになるな……。
それこそ亀のポーズ、いや無我の境地で耐え続けるしかない。我慢比べをこんなところでやることになるとは――
♢
何故か、次々に俺の恥ずかしい歴史をバラされ続け、俺は遠くを見つめながら、じっと耐え続けることになっていたが、長く続いた俺の恥ずかしい話の時間も、なんとか終わりに近づいてきたようだ。
なんだろう、この数時間、ずっと身内にいじめられているみたいだ……。
すっかり黒歴史をバラされて、言葉も出せない俺に、なんと、おしゃべり妖精がトドメを刺す言葉を投げこんできた。
『だいたい、ヒロは私以外の友達がいなかったもんね〜。 ぼっちよ! ぼっち! ほんと私が一緒で良かったわねっ!』
……いや、もう無理です。ノックアウトです。もう勘弁してください。カッコいいお兄さん像は、脆くも崩れ去りました。机に突っ伏して顔を上げられない俺は大きく息を吐いた。
「もう勘弁してください……。」
そんな俺の姿を観て溜飲を下げたのか、フィリアは俺を攻めるのを止め、ナギに問いかけた。
「そういえば、ナギちゃんは、どんなクラスに就くか決めてるの? そうだ、クラス判定もしなくちゃね。」
フィリアに言われて、再びナギが石板に魔力をこめた。リストには、様々な基本職が並んでいる。また、その中に、才能に準じた特殊なクラスの名前が続いていた。
「え〜……、どうしよう……。ヒロ兄、どうしたらいい? 」
迷う少女に向かって、おしゃべり妖精が強い口調で嗜めた。あの時、俺に言ってくれた言葉そのままに。
『 あのね! 自分で自分の道を決めなくて、誰が自分の道を決めるっていうのよっ! あなたがなりたい者になりなさいっ! 』
いつも思うが、この優しい妖精の言葉には、不思議と魂が宿っているように思える。そう、才能に身を委ねてクラスを選ぶか、自分のなりたい者になる為にクラスを選ぶか。これは、ナギ自身が決めなくてはならないのだ。
尚も迷う素振りの少女に、「ナギのなりたいものになると良いと思うよ。」と、俺も優しい妖精の言葉に自分の言葉を重ねて言った。
「それなら――。」
ナギが選んだクラスは、レンジャーだった。
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