双葉の希望
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『やっと着いた〜っ! あんた達に合わせてると、ほんと疲れるわっ!』
そう言ったおしゃべり妖精の表情は明るい。嫌味を口にしながら、実は4人での旅路が楽しかった証拠だろう。
「まったく、本当は私たちといられて嬉しいくせに! ベルっちには困ったもんだ。」
「ほんと、困ったもんだ。」
少女2人からの思わぬ口撃にあい、顔を真っ赤にして騒ぐ妖精だったが、完全に少女達の勝利のようだ。俺は、こちらに火の粉が飛んでこないように、息をひそめてやり過ごしていた。
しかし、それが姦しい3人娘の癇に障ったようで……。結局、最後は俺一人、冒険者ギルドに着くまでの間、お小言を言われ続けることになってしまうのだった……。
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「こんにちは、フィリアさん。」
リンカータウンの冒険者ギルドに到着し、いつも俺たち【アリウム】を担当してくれている、受付のフィリアに話しかける。
「あら、ヒロ君、いらっしゃい。今日は美人の妹さん達とデートかしら?」
それに反応した少女2人が、頭に被せていたフードを下ろす。
「はいは〜い! フィリアさん、今日はナギの13歳の誕生日なの! だから、ナギの冒険者登録にきたのよ!」
「ちょっと、なんでナミが言っちゃうのよ! 私が言いたかったのに!」
『どうでもいいから、さっさと登録しちゃいなさいよ! それより、フィリア! ヒロは私とデートしてるのよ! 間違わないでっ!』
厳つい顔の冒険者が多く、どちらかと言うと剣呑とした雰囲気のギルドの中も、姦し三人娘にかかれば、一気に明るい部屋へと変わってしまう。相変わらず、俺を見る目には冷たいものがあるのだが、眷属になった二人には、優しい視線が注がれていた。
ナミもナギも、俺の後について歩きたがる為、冒険者ギルドにも何度も顔を出していた。
ナミが、13歳になり、一緒に冒険をするようになってからは、ナギは一人で家に居るのは嫌だとよく騒いでいたので、フィリアに頼みこんで、冒険者ギルドの中で留守番させてもらう事も多かった。
だから、冒険者ギルドの職員も、ギルドを利用する冒険者も、二人の少女とは顔見知りばかりなのである。
人に悪意を向けられるのが怖くて、思うように周りとコミュニケーションを取れなかった俺と違い、二人は自分たちの容姿についての悪口や、俺との関係の陰口なども全く気にする事なく、持ち前の明るい性格で周りと打ち解けていた。
そう、実は二人の少女は、冒険者の間で、かなりの人気者であったりもするのだ。
「あら、ナギちゃん! お誕生日おめでとう! じゃあ、まずは才能判定しちゃわなきゃね。どんな才能を授かったのかしら。ヒロ君、いいわね?」
横で誕生日の話を耳にした冒険者達もお祝いの輪に加わり、賑やかな冒険者ギルドは、さながら二人の少女の保護者の溜まり場のようである。
軽く頭を下げて、フィリアの問いを肯定すると、彼女は、優しい笑顔で対応してくれた。いい機会だし、今日のメンバー全員で才能判定してしまおう。銅貨20枚を支払い、フィリアの後について別室へと移動した。
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13歳――
冒険者に憧れる者が皆、待ち焦がれる、冒険者登録が許される年齢である。
13歳にになると、第二の才能が授けられ、初めて一人前の大人として扱われるようになる為、冒険者ギルドでは、この歳になるまでは、冒険者登録を認めていないのだ。
――この世に生まれた者には、3つの才能が与えられると言われている。
生まれた時点にまず一つ、これは前世の行いが、大いに影響すると言われる。前世でどのように人生を過ごしたか、これによって才能の種類が決まるのだ。
成長し13歳になった時、また一つ、才能が授けられる。これは、子供時代をどのように過ごすしたかで決まると言われている。子供達は、ここで良い才能に恵まれるように、いい子にしなさいと親から躾けられるのである。
三つ目の才能については、いつどんなタイミングで授かるかは決まっていない。もしかすると、授からないかもしれない。いや、授からない者の方が多いと言われている。
この、三つ目の才能は、自分自身がそれまでに積んだ徳や経験、努力の量になどによって授けられる可能性が変わると言われている。
故に、三つ目の才能の開花を目指し、この世界の人々は、経験を積み、善行を積み上げ、可能性を広げようと努力し続けているのだ――
「さて、ナギちゃん、準備はいい? 石板に魔力を流すのよ。 さぁ、どうぞ。」
さぁ、希望に溢れる少女が、冒険者として新しい人生を踏み台す――
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