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英雄の種②


           ♢



「ごめんなさい! 遅れちゃって! ナギちゃん、13歳の誕生日おめでとう!」


 みんなでワイワイ盛り上がっている所に、手作りのケーキ乗った皿を抱えて、アメワが顔を出した。そのケーキを見た女性陣は大喜び。


『アメワの作るお菓子は最高だから! ヒロもこのくらい気の利く男になりなさい!』


 そういえば、ヒロは食べ物も見つけられないで泣いていたのよ、なんて……、なんか話を大きくして喋りまくるおしゃべり妖精の口に、無理矢理ケーキを押し込んで黙らせる。


 そんな俺たちのやり取りを笑ってやり過ごしながら、アメワはライトに挨拶する。


「先生、こんにちは。本日もよろしくお願いします。」

 

 アメワは、俺たちが三日月村に住むようになってから、ライトに色々な知識を教わるようになった。自らが先生を目指している事もあり、豊富な知識を持つ歴史学者のライトは、これ以上ない先生役なのであった。一般的な教養から、アメワも使う炎魔法まで、幅広く教えてもらっていた。

 その中でも、ライトの専門である歴史分野について、アメワは大きな感銘を受けていて、一日中二人で、歴史についての考察をすることもあるくらいであった。

 

「さぁ、ヒロ兄、早速街に行って冒険者登録をしましょうよ! 私、早くヒロ兄たちと一緒に冒険に行きたい!」


 もう待ちきれないという感じで、ナギは俺の手を引く。まだ、ケーキも食べ終わってないのに。ケーキを慌てて掻き込んで、ナギと共に家をでた。


「わかった、わかったよ。じゃあ、ちょっと街まで行ってきます。みんなは、ゆっくりしててね。アメワ! ケーキ美味しかったよ。ありがとな!」


「アメワ姉っ! ありがとっ! めっちゃ美味しかった! 今度はクッキーよろしくっ!」


 ペロリと舌を出しながら、次のリクエストをしているナギに、親元から離れて暮らす悲壮感は感じられない。上手く隠しているのかもしれないが、こうやって一緒に過ごしているファミリーの存在が、彼女をしっかりと支えてくれているのだろうと思う。


「ちょっとナギ! 私も行くってば! ヒロ兄待ってってばっ!」


 何も言わずに飛んできて、俺の肩に座ったおしゃべり妖精と共に、黒髪、白い瞳の少女ナミが俺たちの後を追いかけてくる。彼女も、使徒の眷属になった事で、自身も自身を取り巻く環境が大きく変わってしまった一人だ。


 俺たちが、問題なく三日月村に住めている事からも、三日月村の人々は、ナミや俺たちに対して、気を遣ってくれているのがわかる。

 カヒコの両親や、アメワが色々と配慮してくれる事もあるし、この村の中で、危険を感じる事はそうそう無いのだ。自分の容姿が変わった事で、ナギもナミも、しばらくは不安な顔をしていたが、優しい仲間と、村人に囲まれて、元来の明るい性格を取り戻していた。


 俺自身も、いつでも周りの悪意に晒され続けていた生活が、この村に住むようになってから薄まった感じがしている。人が人を評価し、簡単に蔑みの対象にしてしまうことが、いかに些細な事が原因になるのかという事を改めて知った気がする。

 人は、単純に目や耳から入る相手の情報に、自分と比べた見た目の姿や、他人からの悪い噂が加わってしまうことにより、第一印象をすこぶる悪く評価してしまう。

 営業の仕事をしていた時、お客様にとっての第一印象で営業の結果が決まるなんて、よく言われていたけど、これは、営業の話だけに止まらないようだ。


「「「行ってきますっ!」」」


 喜びが溢れて止まらない少女に手を引かれながら、俺たち4人はリンガータウンの冒険者ギルドへと向かった。



           ♢



 ゴブリンによる少女誘拐事件に始まった、使徒ヒルコの仮面騒動から、約1年半の月日が経った。


 実は、俺たちは、あれから氷狼にも、吸血鬼王にも、再会できずにいた。二人との連絡役である精霊、霜男=ジャックフロストのフユキも、嘆きの妖精=バンシーのヒンナも、首を傾げるばかりで連絡できていない。


 何度もリンカー、レッチェの両ダンジョンに挑戦したのだが、あの時に現れた、主の部屋を見つける事は出来なかった。あの時、部屋の扉が目の前に現れたのは、使徒らの導きだったという事なのだろう。


『――俺はダンジョンの中のどこにだって行けるし、こうやってダンジョンの外にだって出られる。ヒルコ以外の使徒はみんなそうだ。勝手にお前らの常識を押し付けるんじゃねぇ――』


 あの時、フェンリルさんは確かにこう話していた。という事は、あれ以来会えていないと言うことは、理由はわからないが、フェンリルさんが俺たちに会おうとしていないという事になるだろう。吸血鬼王のブラドさんについては、ヒルコの罠による攻撃で、まだ、回復できてないのかもしれないし。

 戸惑い悩む俺に、あれだけ真実の歴史について知りたがっていたはずのライトさんとソーンさん「僕たちは、今、やれる事をやって待つしかないのだ。」と、話して俺を落ち着かせてくれた。


 そう、自分たちは、あの時に誓った約束、優しい英雄を目指して、一歩一歩力をつけながら、前に進むしかない。きっと、進むべき時には進むべき道が開けるのだと――

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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