僕らの英雄
『さぁ、さっさと帰りましょ! 早くダンジョンから戻って、ゆっくりしましょうよ!』
自称リーダーのおしゃべり妖精が、大きな声で号令をかけた。
ケインさん、ユウさん、パーンさんの亡骸は、流石に運ぶことはできない為、それぞれの形見だけいただき、ライトさんの炎魔法で火葬した。
三人の他の冒険者たちも、冒険者章だけを外し、火葬した。正直、吸血鬼王の血の弾丸への盾に使われていたせいで、顔もよくわからないほどだったが、冒険者ギルドに片見を提出すれば、しっかりと誰なのか確定してくれるだろう。
身近な仲間である三人の死と、ヴァンパイアロードが眠りについてしまった事で、かなり沈んだ雰囲気になってしまっていたのだが、なんだかんだで、この妖精が喋ると、みんな前向きになれるんだ。
やっぱり、リーダーの素質があるのかな?
♢
ダンジョンからの帰り道には、ここに来た時にはいなかった仲間が増えた。
あの後、ヴァンパイアロードとの連絡役として、闇の妖精、嘆きの妖精=バンシーと契約したんだ。名前は、ヒンナ。可愛い人形の姿をしているので、あちらの世界の人形の神様から名前をいただいた。
「ヒンナ、これからよろしくね。君は闇の精霊だけど、リュックの中なら大丈夫そうだね。」
ヒンナは、リュックから顔をだしてあいさつしてくれた。彼女は、戦闘に使える能力については全くの未知数だけど、数少ない、人と話せる精霊さんだ。もともとは、人の死を知らせて歩く精霊らしいけど……。
《――ヨロシクオネガイシマス。》
未だに他の精霊たちの声を聞くことはできないが、いつかは他の精霊たちとも会話で盛り上がりたい。
♢
荷物の多い俺に変わって、ライトさんがナギちゃんを背負ってくれている。嘆きの妖精の案内のおかげで、ダンジョン内は安全に歩けているとはいえ、30階もの階層を戻る道のりを、少女を背負って歩くのは、かなりの重労働だろう。
ヒルコの仮面とは、その宿主にヒルコの分身体を体内に送り込み、魂を糧にして操ってしまうのだそうだ。その為、魂にかなりの負担が掛かってしまったナギちゃんは、まだ身体を思うように動かせないでいた。
「ライトさん、ごめんなさい。」
「なにを言うんだい。僕は魔術師だけど、これでもB級冒険者だよ。体力も力も、そこらの男よりもあるつもりさ。気にしないで、僕に任せておいて。」
そんな二人のやり取りを横目で見ながら、俺は皆んなに謝った。
「ライトさん、色々と大変な役割を任せてしまって、本当にすいません。とても危険な冒険でしたが、あなたの強力な魔法と、冷静な判断に救っていただきました。さすがB級冒険者、凄い方です。あなたは僕にとっての『英雄』です。」
突然の言葉に、ライトはポカンと口を開けている。
「ソーンさん、あなたには、ケインさん達を救うことができないという思いを、再びさせてしまいました。危険を犯して救援にやって来たのに、申し訳ありませんでした。ただ、みんなを優しく包む、あの回復魔法、やっぱり凄いB級冒険者です。ソーンさんも僕にとっての『英雄』です。」
ソーンも口が大きく開いたままである。
「僕の力があまりにも足りなさすぎて、お二人にご迷惑ばかりおかけしました。こんな僕ですが、これからも一緒に冒険してくれますか?」
二人はお互いに顔を見合わせて笑いながら言った。
「――君だって……。行き先を見失っていた僕の(私の)進むべき道を指し示してくれたんだ。感謝しかないよ。ここへ、僕(私)を連れ出してくれた君こそ、僕達(私達)にとっての『優しい英雄』だよ。」
そして、それを聞いていたナギちゃんも、
「お兄ちゃんは、いつも人を助けてるじゃない!お兄ちゃんは、私にとっても『英雄』だよ!」
俺が『優しい英雄』だなんて……。
目標にしていたケインさんの剣は、今、彼の肩身として俺の手の中にある。少しでも、あの優しい剣士に近づくことができているのなら、嬉しいな……。
『ふふっ、あなたが頑張ってきたのを、みんなちゃんと見てくれてたのね! まぁ、私はずっと知ってたけど。ね、私の『優しい英雄』さんっ!』
おしゃべり妖精が、右手を前に突き出し、親指を立てて、優しい剣士が特異だったあのポーズを決める。
「――みんなで、優しい英雄を目指して、頑張りましょう! これからも、一緒に冒険してくださいっ! よろしくお願いします。」
俺もベルの右手に合わせて親指をたてた。
それに合わせて、ライトも、ソーンも、そしてナギちゃんも、同じポーズをして笑っていた――
これにて、第3章終了です!
引き続き、明日から第4章へと続きます。彼らの成長した姿を、ぜひ応援してください。よろしくお願いします!