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聖職者の決意


           ♢



「ヒロ君! 女の子が目を覚ました!」


 仮面の少女=ナギに付き添っていたソーンから声があがった。すでに仮面は壊されている為、ナギの素顔を見ることができている。少女は、ゆっくりと目を開いた。



「……あ……ああ……あう……。」


 ナギは、まだ上手く口が動かないのか、ちゃんと声が出せない。



「ナギちゃん。無理しないで。少しずつ喋れるようになるから。」


 俺は、なるべく優しく声をかけた。彼女にしてみれば、ただでさえ、自分の置かれている状況を理解できない訳で、しかも、この場には誰一人見知った者はいないのだ。少しでも不安を取り除いてあげたい。


「あ……あの……時……の……おに……い……ちゃん?」



 なんと、前にゴブリン討伐を請け負った時、少しだけ会話しただけであるのに、俺を覚えていてくれたのか。それなら、彼女をしっかりと安心させてあげなくては。


「そうだよナギちゃん。僕のこと、覚えていてくれたんだね。よかった。君を助けに来たんだ。もう大丈夫。一緒に新月村に帰ろうね。」



 少女はまだ身体に力が入らないようだ。だが、目を覚まして、自らの意思で話をできるという事は、ヒルコの仮面の支配の力に、ヴァンパイアロードの力が勝ったということだろう。これで、彼女は助かったと確信できたのだ。


 そして、これは同時に、彼女がヴァンパイアロードの眷属になったという事も意味するのだ。

 いつの間にか、彼女の髪が白く変化している。本人には気づく事はできないだろうが、真っ白な髪は、俺とまったく同じにようになっている。


 ナギ本人は、眷属になる事を了解したわけではない。もしかしたら、この事実を知った時に大きなショックを受けるかもしれない。俺はそれが心配だった。



「お兄……ちゃん、また、私……たちを助けて……くれたんだね。あり……がと。」


 少女の言葉に、ツンと涙が込み上げた。人から感謝される事がなかった俺は、素直に感謝された事実に喜びの涙が。そして、少女のこれから送ることになるであろう、困難な人生についての不安の涙が。二つの気持ちが入り混じり、なんとも言えない感情の涙が押し寄せたのだ。



(俺やアリウムみたいな、不幸な人生には絶対させない。俺が守ってあげなくては……。)


 新月村は、特に排他的な考えの村人が多い。彼女に危険が迫るようなら、俺が村から連れ出そうと考えている。今ならソーンとライトがいる。住む家の用意もきっとできるだろう。なんなら、ライトの穀物庫を借りたっていい。

 

 でも、まずは一度、村に帰って、ナギの両親にあわせてあげなくては――



         ▼△▼△▼△



 ソーンは、この先の人生、進取果敢に挑み続けると決意している。そう、今までの凝り固まった考えをもっと柔軟にして、自分の目でみて判断し進んで行こうと決めたのだ。目の前で白髪の少女を気遣う、この少年に再会し、一緒に歩く事を決めた時から――



 計らずも、先程のヴァンパイアロードと少年の会話を聴いて、どんなにこの白髪の少年が、不幸で辛い人生を歩んできたのかを知ってしまった……。


 おそらく、少年自身の力だけでは、その不幸な運命に抗うことはできなかっただろう。

 自分の両親が二人とも使徒の眷属であり、その白髪、白瞳という見た目の特徴は、完全に親から受け継いだものである。そして、少年を愛し育むはずだった両親は、少年が生まれてすぐに殺害され、親の居なくなった少年は、無下に孤児院の前に捨てられたのだ。どこに、この少年自身が不幸から抜け出すチャンスがあったというのか……。


 私自身も、こんな辛い思いをしている少年を魔物の子供だなんて言って蔑み、不幸の追い討ちをかけたのだ。そんな人としてあるまじき行為を疑問にも思わずやっていた自分の事が恥ずかしくて、不甲斐なくて、どうしようもない。


 しかし、この特大な不幸を背負って生きてきたこの少年は、目の前にいる、これもまた不運な少女を救う為に自ら危険に飛び込み、そして、自身を蔑み、一緒に行動する事すら拒んだ私を許し、私に新しい道を示してまでくれたのだ。


――何という強さだろうか。


 彼は、自らの不幸な運命に負けず、しっかりと地に足をつけて自分の意志で前に進もうと頑張っているのだ。私は、人から与えられた教えを信じて、盲目に進むことしかしてこなかったというのに……。



 私は、この先、この少年の助けになっていこう。

 おそらく、これからも、この少年は危険な道を進むことになるのだろう。今日の出来事を考えれば、容易に想像ができる。


 正しい歴史に触れるということは、偽りの歴史を作り出した側からの悪意に曝される事になる。

 

 この世の中の常識が間違っていると叫ぶということは、非常識のレッテルを貼られる事にもなるだろう。


 だが、私は知ってしまった。


 今まで、無条件に信じていた常識こそが、目の前にいる不幸な少年を不幸にしていたという事を。


 私は変わる。無意識にいじめに加担していた自分を、それじゃ駄目なんだと気づかせてくれた彼のために――



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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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