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歴史学者の進むべき道


 ライトは、異端の歴史学者と言われている。

 意気揚々と発表した論文が、研究者や学術者の間で全く受け入れられず、彼は学会での笑い者にされてしまい、その結果、学会から半ば追放されるような形で、町外れの穀物小屋へとその居場所は追いやられていた。

 その原因となったのが、『歪められた敗者の歴史』についての考察、という彼の論文である。


 この世界の常識は、善なる神々の教えを素にして成り立っている。しかし、彼は、その世界の常識が、実は勝者にとって都合の良く作り上げられものではないのかと主張したのだ。

 それは、目の前にいるヴァンパイアロードの言葉を聴いた時から、彼の中で膨らみ続けた疑問に対しての、自分なりの答えであった。


 ライトに授けられた才能、【メモリー】は、【瞬間記憶】と【考察】というスキルを生み出し、このスキルにより、自分が気になった言葉は完璧に記憶され、そして様々な可能性を論考しつづけるのだ。

 元々、興味が湧いたら、どこまでも突き詰めたい性格である。彼は、今までになかった新しい考え方に、大きな高揚感と期待を感じながら、その考えをまとめることに没頭していたのだ。


 だから、自分としては、上手く論文を書き上げたと思っていたのにも関わらず、その論文が全く人々に受け入れられなかった時は、少なからずショックを受けてしまった。



「――なんで、みんな、考える事を放棄するのだろうか。なんでも始まりは0であって、そこに1でも2でも積み重ねていかなければ、新しいものは生まれないというのに――」



 新しい考え方に対して、考える事を放棄して、それは世界の常識とは違うから、と盲目的に拒絶していては、どんな分野においても進歩はありえないだろうに……。


 

            ♢



 今、異端の歴史学者と言われた男は、前に吸血鬼の王の言葉から新しい論文を書いていた時に感じた高揚感を更に超えて、それは、幸福を感じていると呼べるほどまでであった。


 なんと、目の前にいる吸血鬼の王は、いずれ全てを話すと約束をしてくれたのだ。勿論、今すぐにでも、世界の常識とは異なる歴史について聞きたかったというのは間違いない。しかし、いずれは知ることができるのだ。

 しかも、今日、吸血鬼の王の新しい言葉を再び【瞬間記憶】することができた。この覚えてた言葉から、さらに新しい考察を考える楽しみができたのだ。


 今すぐに知り得る事と、知った事を素に考えを巡らす事では、自分は後者が好みである。考えを巡らしている時こそ、新しいものが生まれるのだから。



            ♢



「――ヒロ君。僕をパーティーに入れてくれて、本当にありがとう。僕は、今、とても幸福感に包まれているよ。勿論、今すぐにでも吸血鬼王から真実を教えて貰いたかったというのは間違いないけれどね。でも、自分なりの考えを巡らし、それを後から答え合わせできるというのも、これはこれで、とても楽しみなことだから。」



 不測の事態により、吸血鬼の王が突然眠りにつく事になってしまい、彼が言った、真実の歴史を聞くことは、今すぐにはかなわなくなってしまった。しかし、歴史学者として、これからの自分が進むべき道をはっきりと確認することができたのだ。


 自分がこの道を見つける事ができたのは、ケインが気にかけパーティーに同行させようとした時、自分が反対して同行を許さなかった、あの時の少年のおかげである。

 なんという不思議な縁でろうか。あの優しい剣士が、この少年を気にかけてくれていなければ、自分は、真実の歴史があると知りながら、その真実に深く立ち入る事は出来なかっただろう。


 目の前に横たわる剣士から、彼の冒険者章を外して、少年に渡す。


「ケインの冒険者章と剣は君が持っているといい。ユウとパーンの冒険者章はソーンが持っていてくれ。僕には……、これから知ることになる真実があれば充分だから。」



 そう、これから始まるのだ。

 真実の歴史を知る為の冒険が。

 

 その為に、僕は、この白髪の少年についていく。

 かつては、魔物の子供と馬鹿にして、この少年を傷つけてしまった事もある。

 しかし、そんな事に関係なく、彼は自分の非行を許し、パーティーへと加えてくれた。僕に、こんなにも魅力的な冒険のチャンスをくれた少年には感謝しか無い。


 今日の出来事だけとっても、恐らく、かなりの危険を伴う冒険になるであろう。

 でも、真実を知る事ができるのであれば、それでもいいと思えるのだ。

 冒険に行く為に身につけた魔術の知識も、きっとこの時の為であったと確信できる。僕の才能も、スキルも、きっとこの真実を知る為に授けられたに違いない――



 異端の歴史学者と呼ばれ蔑まれた男からは、論文を認めてもらいたいとか、魔術師大学の研究室に戻りたいとか、そういった気持ちは薄くなっていた。



 「ただ、真実の歴史を知りたい。」


 その純粋な思いだけが、彼のこれからの人生を歩む為の希望となっていた。


 

 

 

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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