糸と仮面①
『ヒロ! 糸ってあれじゃない? みんな、ナギちゃんからたくさん繋がってるわよ!』
おしゃべり妖精には糸が見えるらしい。
ならば、妖精の指示に従うのみ!
「ベルさん! 僕には糸が見えないから、何処を切ればいいか指示して!」
ライトとソーンには、操られている者達の足止めを頼む。複数相手にならない立ち回りが必要だ。
「一人ずつ仕留める! みんな援護してっ!」
♢
一番厄介なのは攻撃力の高いケインさんだ。しかし、接近戦なら俺の【障壁】で動きを止めればなんとかできるはず。遠くから攻撃してくる連中は無視して、まずはケインさんの糸を切る!
俺は、体全体に薄くて硬い【障壁】をイメージして纏った。魔力を集中して込めて、いつも以上に硬さを増す。そして、その状態でケインさんに組みついた。力では到底敵わない。しかし、俺にはたくさんの仲間がいる。
「ハニヤス!ミズハ! ケインさんの足元にもう一度泥沼!」
動きを止めることに注力する。意地でもケインにしがみついて動かさない。ケインは魔法剣の柄を何度も俺に叩きつけるが、【障壁】が全部防いでくれている。剣で切り付けられつも、その刃は俺の身体に届かない。その隙をついて、おしゃべり妖精に指示をとばす。
「ベルさん! 僕には糸が見えない! サクヤに糸の位置を知らせて、糸を焼き切って! サクヤ、頼んだぞ!」
おしゃべり妖精は、大きな声で返事をすると、ケインの背中に向けて火蜥蜴の炎の舌を指示した。
火蜥蜴が炎でできた鞭を振り下ろすと、ケインの背中から繋がる見えない糸に火がつく。その数5本。一気に燃え尽きた。
「ベルさん!サクヤ! ばっちりだ!」
よし! これならやれる! 糸の切れたケインは、その場にへたり込んで動きを止めた。やはり糸が無ければ操れないようだ。吸血鬼王のアドバイスは的確に相手の弱点をついている。
俺のやり方を見たライトが、ベルに向かって叫ぶ。
「妖精さん! あちらの魔術師達も背中に糸が繋がっているのかい!? 」
おしゃべり妖精が肯定すると、ライトはソーンに魔術師達の足止めを要請する。
「糸は見えないが、背中側を焼き尽くす! ソーン、こちらに背中を向かせるように頼む!」
長い付き合いの2人だ。その言葉だけで聖職者は動き出し、得意の棍術で接近戦を挑む。時計回りに回るように立ち回り、相手の魔術師の背中がライトに向いた所で詠唱が完成した。
「ナイスだ、ソーン! 『世に顕在する万能なるマナよ、その力を炎の波となし敵を焼き尽くせっ、フレイムスロワー』っ!」
魔法による火炎放射により、糸の切れた魔術師2人はバタバタとその場に倒れこんだ。さすが、ベテラン冒険者。見事な対応力だ。少しの情報で、あっという間に攻略法を見つけ出す。
3人の糸を切られた仮面の少女は、体制が不利ととらえたのか、残りの4人を自らを囲うように引き戻した。ユウ以外は、穴だらけ、血だらけであるが、自らの盾に使うつもりだろう。
しかし、仮面の少女を中心に円陣を組んだ状態では、操られている冒険者の背中を見ることができない。背中が見れなければ糸が切れない。
「みなさん! 僕が突貫して隙を作ります! なんとか糸を焼き切ってください!」
そう言って突撃しようとする俺の足に、ケインの手が絡んだ。
「ナ、ナシ……、これを使え……。」
その場に突っ伏したまま、ケインが俺に魔法剣を差し出す。俺は、黙ってその魔法剣を受け取り、右手にケインの魔法剣、左手にカヒコのショートソードを持って走り出した。
「ナナシ……、やっちまえ!」
背中からケインの声が響いた――
ケインの声に背中を押され、おしゃべり妖精と火蜥蜴を肩に乗せたまま、ユウに組みついた。当てずっぽうにユウの背中辺りを切り払う。パーンと残りの剣士が俺に集中攻撃を仕掛けるが、弾力の意思をこめた【障壁】が跳ね返す。しかし、前衛職の三人と同時攻撃だ。真上からの圧力に耐えられず、両膝をついてしまった。
当てずっぽうの切り払いでは、全部の糸を断ち切ることはできなかった。しかも、俺は3人の戦士にのしかかられ、身動きがとれない。
「ヒロ君! そのまま三人を引っぱりこんでくれ!」
ライトが何かを思いついたようだ。俺は力一杯、三人の戦士に抱きついた。押し合い、拮抗していた力が急に無くなった為、俺と三人は共に一斉に倒れ込んだ。
「よくやったヒロ君! 『世に顕在する万能なるマナよ、その力を炎の波となし敵を焼き尽くせっ、フレイムスロワー』っ!」
準備していた魔法の詠唱を完成させて、ベテラン魔術師は再び炎の魔法を放った。広範囲を焼き払うこの魔法が、俺にのしかかっていた3人の背中一面を、一気に焼き払った――
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