ダンジョンの難易度
繰り返しになるが、ダンジョン=レッチェアームは、不死者=アンデットが発生するダンジョンである。
一番浅い階には、スケルトンと呼ばれる、骸骨の戦士が闊歩しているのだが、動きも遅く、それほどの脅威にはならない。
地下6階。この辺りになると、スケルトンに混じって屍食鬼=グールと呼ばれる動く死体が増えてくる。この屍食鬼は、人型だけではなく、犬や猫、牛や馬など、動物型のものもたくさん存在するらしい。
今、目の前に現れたのは、大ネズミの屍食鬼。
片目が潰れて、目玉が垂れ下がっている。至る所腐食した肉が盛り上がり、まあ、見た目かなり気持ち悪い。
「どれ、僕の出番かな。『世に顕在する万能なるマナよ、その力を炎の波となし敵を焼き尽くせっ、フレイムスロワー』!」」
3匹いた大ネズミ型の屍食鬼は、あっという間に炎の波に飲まれ、焼きつくされた。初めてみるライトの魔法の威力に、度肝を抜かれる。魔法の炎というものは、こんなにも簡単に、屍食鬼を燃やし尽せるものなのだろうか。
「いやいや、今日はずっとヒロ君に任せっきりだったからね。ちょっと張り切ってしまったよ。」
呆れた顔の聖職者に、オーバーキルになる程の力をつかうなんてと、頭を小突かれている。使わなくても良い威力の魔法を使ってしまったようだ。
これを見てヤル気をだしたのが、火蜥蜴のサクヤ。私にもやらせろとの視線の圧が凄い。今まで土小鬼のハニヤスばかり目立っていたのも、闘争心に火をつけたみたい。元々、彼女は燃えてるんだけど……。
♢
「なんだか、魔物の数が少ないわね。」
ダンジョン=レッチェアームに何度も挑戦している聖職者と魔術師の2人の話によると、出現する魔物の頻度も一度に現れる数も、普段より、かなり少ないようだ。
初めて挑む俺には、それなりに魔物と戦っている感覚なのだが、普段なら一度に10体を超える屍食鬼が現れることもザラだという。
現在、地下10階まで降りてきたのだが、今まで4匹を超える魔物の集団に出会ったことはなかった。ダンジョンを探索するには、これ以上ない幸運なのだが、経験豊富な2人からすると、何かかえって不安を感じるという。
「とにかく、ダンジョンの中が、普段と違う事は間違いないわ。慎重に進みましょう。」
♢
未だに、霜男のフユキには、ヴァンパイアロードからの返答が無いようで、頭をもたげて申し訳なさそうにしている雪だるまが可哀想になってしまった。別に君が悪いわけではないよ、と言い聞かせてはいるが、本人はどうにも心苦しいみたい。
『前方に犬型屍食鬼3匹っ! 気をつけて!』
犬型の屍食鬼は、今まで出会った屍食鬼の中で、一番動きが早い。ある程度の連携もしてくるので、注意が必要な相手だ。
サクヤに声をかけようとした矢先、後方から進取の聖職者から、浄化の祈りの声が響いた。
「不浄の存在に浄化の光を!『ピュリフィケーション!』」
ソーンが祝詞を紡ぎ終えると、目の前にいた犬型屍食鬼は、光の粒子となって消え去る。進取の聖職者の浄化の力は、これもまた簡単にアンデットを跡形も無く消しさってさまった。
「なんだい、君だって相当気合いが入ってるじゃないか。よくもまぁ、僕に文句を言えたもんだ。」
魔術師が腹を抱えて笑っている。
聖職者も、案外に負けず嫌いのご様子だ。
ただ、さらに負けず嫌いなのは、またしても活躍の場を奪われた、火蜥蜴らしく、自分の活躍の場を奪われたと炎をの舌を震わせて怒っていた。
それにしても、新しい仲間も、精霊達も、頼りになる人ばっかりだ。護るしか取り柄のない俺も、なんとか活躍したい。しかし、その様子に気づいたのか、ソーンが声をかけてくれた。
「私もちょっと気合い入っちゃって。いつもより魔力を込めすぎちゃったわ。でもヒロ君、それも君が私達をしっかり守ってくれてるからできるのよ。」
ちゃんと俺のことも立ててくれる。
こんな感じで気分を乗せられてしまったら、いつも以上に力を出せそうな気になってしまう。これがパーティーで戦うという事なのだろう。お互いにフォローし合うことにより、それぞれの個人の力も引き上げる。こうやって、皆んなで強くなっていくんだ。
♢
――地下15階
大きな魔物の集団に出会う事もなく、やる気に満ち溢れた火蜥蜴の活躍もあり、相当な速さでダンジョンを進み続けている。
スキル【瞬間記憶】という、ダンジョンの経路をも覚えてしまうライトの案内があるとはいえ、ここまで早いテンポで進むことができているのは、先に先輩二人が言っていた、魔物の数が少ないというラッキーが重なったからだろう。
「フユキ君。守護者との連絡はつかないのかね?」
ライトの問いかけに、霜男の反応は、やはり芳しく無い。相変わらず、繋ぎが取れないのだろう。
パーティーのみんなにも、少し不安もよぎり初めた。とはいえ、ダンジョン探索は順調である。魔石以外の素材採集は放棄し、先へ先へと進むのみである。
『この調子でどんどん進んじゃえばいいのよ! そのうち、部屋にも辿り着くわ。さぁ、あなた達、気合い入れなさいっ!』
我らが斥候役で自称リーダー、おしゃべり妖精さんは、俺の頭の上に腰掛けながら、右手を突き上げている。みんなの気持ちを知ってから知らずか、彼女のおかげで、笑みがこぼれる。
実は、凄いリーダーなのかもしれないな――
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