異端の歴史学者の興味
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ソーンとライト。2人は先日のダンジョンでの使徒との戦いについて、色々と話してくれた。とくにライトは、自分の論文について滔々と語り続け、そのあまりの熱量に、普段は逆の立ち場であるはずのおしゃべり妖精ですら辟易としたほどだった。
「君は、ダンジョン=リンカーアームの使徒に会ったのかい!? それは凄い、勿論、僕も会わせてくれるんだろうね!」
俺が氷狼から吸血鬼王に会うように言われてきたと話すと、ますます異端の歴史学者の興味を煽った形となり、隣で話を聴いていたソーンも、いい加減にうんざりとした表情になっていた。
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ライトの演説が一段落してから、俺はヒルコの仮面とその企みについて話した。
今回の目的が、ケインさんの救出だけではなく、ヒルコの仮面により操られ攫われてしまった、可哀想な少女を助ける事にあること。
そして、その方法をとれば、少女を悪なる神の使徒の眷属にしてしまうこと。すでに、一人の少女がこの方法によって助けられたということ。
すると、ソーン、ライト2人共揃って、話を真剣に聞いてくれた。おそらく、この世界の何処にもまったく記録されてこなかった歴史の一幕。何度も何度も、使徒同士で戦い続けてきた歴史なのだ。
俺と一緒に使徒に会いに行くという事は、まさに、世界の誰にも知られていない歴史の裏にある戦いに、足を突っ込んでしまうことになる。
自分達が、周りから孤立してしまう可能性もあるのだ。今までの生活とは、全く違う生活になるかもしれない……。
二人に対して、「覚悟はありますか?」と問う。
「――何を言うかと思えば……。私はすでに覚悟を決めて、それで君についてきたのよ。今更、置いていくと言われても無理矢理ついていくから。」
「僕達は、新しい歴史の扉を開こうとしているのだよ。絶対に真実の歴史を解き明かしてみせるさ。だから、こんなに興味深い話が目の前にあるというのに、自分に覚悟があるか無いかなんて、全く関係ないね。」
二人とも、なんとしても一緒に行くつもりのようだ。なら、俺に異論はない。大いに手伝ってもらおう。ただ……
「最後に……、お2人は僕を仲間として認めてくれるのでしょうか。以前に別れた時、あまり僕の事を良くは思っていらっしゃらない様子でしたので……。」
俺にとって、魔物の子供だなんだと言われながら一緒に危険なダンジョンに臨むなんて、とてもじゃないが考えられない。
「それに、僕の両親は、使徒の眷属でした。さっき話した少女たちと同じように、眷属になる事によってヒルコの支配から助けられた者たちです。人間ではあるけれど、眷属である二人の子供、それが僕です。2人の容姿の特徴が、そのまま僕の容姿に受け継がれているのがその証明かと思います。――それでも、僕を仲間として認めてくれますか?」
二人は一瞬の沈黙の後、一度顔を見合わせてから話し始めた。
「――そうね。まだ、あなたに謝っていなかったわね……。ごめんなさい。ただの噂に左右されて、自分の目で判断することをしなかった……。私はとても恥ずかしい。これからは、絶対にあのような事はしない、そう誓うわ。もう一度言います。ごめんなさい。」
「――僕も、先ほどの軽口も含め謝罪するよ。僕にこんなにも色々な可能性を見せてくれた君と、これから是非とも一緒に行動させてほしい。今まで本当にすまなかった。」
二人は深く頭を下げた。
それを聞いた優しい妖精は、僕が話すよりも早く、2人の前で胸を張りながら宣言した。
『ちなみに、この子の名前は、ナナシじゃなくて、ヒロよ! 二人ともヒロを泣かすような事をしたら、私が許さないからっ!』
優しい妖精は、いつも俺の代わりに怒ってくれる。
『あっ! あと、このパーティーのリーダーは私だから! みんな、私のことはリーダーって呼ぶのよ! わかった?』
最後のベルさんの言葉を聞いた瞬間、このメンバーが揃ってから初めて、みんな揃って大きな声で笑った。ベルさん以外の、だけどね――
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