異端の歴史学者の論文
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〜『歪められた敗者の歴史』についての考察〜
ル パンスール ライト
悪なる神とその封印された身体を護り続ける使徒という存在は、善なる神々に逆らって滅ぼされた邪悪な存在、これが、現在語り継がれている、世の中の常識である。
しかし、何故かその悪なる神を邪悪とした原因は、どの書物を読んでも、善なる神々それぞれの教えを調べても、実は明らかにされていない。
何故、悪なる神は邪悪とされたのか。
この疑問点について、私は一つの仮説をたてた。
それは、悪なる神は、善なる神々との戦いに負けたことにより邪悪な存在にされたのではないか。
もっと噛み砕いて言えば、邪悪な存在では無かったのに、戦いに敗れてしまったが為に、太古の神一柱が悪なる神とされてしまったのではないだろうか。
その戦いの原因までは予想できていないが、対等、もしくは差のない神同士の諍いが戦いとなり、敗北した神、悪なる神と云われている存在が、勝者である神、善なる神と云われる存在によって、一方的に邪悪だと伝えた可能性が考えられる。
負けた側は、反論などすることができない為、勝った側が好きなように歴史を作り上げることができる。これは、地上に住む様々な民族すべてにも当てはまる現実である。
私は、先日の悪なる神の使徒である、ヴァンパイアロードとの邂逅の際、彼から発せられた『騙され作られた歴史』という言葉に注目している。
彼は、おそらく神々の戦いがあった太古の昔から存在しているはずで、まさに戦いに負けた側の存在である。その彼が、間違えた歴史が伝わっていると言った事には、かなり重要なエッセンスが含まれていると思われるのだ。
勿論、歴史を改ざんしようといった目的で発せられた言葉の可能性もあり、全てをそのまま受け入れることは、非常に危険である。
だがしかし、その危険を認識するということは、元から歴史が改ざんされているという危険性についても否定できなくなるのではないだろうか。
ヴァンパイアロード、悪なる神の使徒である彼が言ったように、『騙され作られた歴史』である可能性を鑑みて、今後もダンジョンの探索と、神々の戦いに関する研究を進めていくことにする。
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ダンジョンでの悪なる神の使徒との戦いを生き抜き、無事に生還した歴史学者は、ダンジョンからの帰還後、こんな論文を発表した。
しかし、学会ではほとんど評価されず、愚かで気狂いの学者として笑い者となった。
それでも、新しい考えを証明してみせると、魔術師大学の研究室から、街外れの暗い建物に追いやられながらも、異端とされた歴史学者は、一人研究を続けている――