若筍冒険者、悩む
アメアをその場に残し、家を出る。
優しい妖精は、いつもは喋り倒すのに、肩に座りながら、俺の頭を優しく撫で付けている。
外に出ると、氷狼が俺の横について歩き出した。
『あの嬢ちゃんは連れて行かないのか?』
俺が無言で頷くと、『そうか。』と短い返事だけして、そのまま村を出るまで氷狼も一緒に歩く。
『一度、リンカータウンに行くんだろ? 街に着いたらダンジョンに一度来い。必ずだ。』
そう言うと、氷狼は一陣の冷たい風を残していなくなった。
俺は、そのまま無言で歩き続けた――
♢
「――ヒロ君っ!」
今回の三件のゴブリン討伐クエストについての報告をする為、街に戻って最初に冒険者ギルドに立ち寄ると、受付のフィリアさんが、対応している冒険者を放ったまま、俺の元に駆け寄った。
「色々と報告は入ってるの。無事で良かった……。そっちの部屋で待っていて。すぐ私も行くから。」
才能判定用の別部屋を指差し、自らはカウンターに戻っていく。
俺はそのまま部屋へと向かった。
♢
俺は、冒険者ギルドに着くまで、どのように報告するかをずっと考えていた。
ゴブリンを討伐した事を報告するのは問題ない。ただ、二人の少女が攫われていたこと。今は手元から無くなってしまったが、謎のヒルコの画面のこと。そして、悪なる神の使徒である、氷狼フェンリルやヴァンパイアロード、その眷族についての話……。
氷狼が言う「お前達の勝手な常識」では、なかなか信じがたい話でもある。
悪なる神と忌み嫌われている存在が、ダンジョンの外に出現し、あまつさえ、彼は少女を助けるべく手を貸したのだ。
その方法が、自らの眷属にするという、これまた信じ難い話なわけだ。しかも、アリウムの両親はその眷属だったという……。
いやぁ、これはほとんど話せないな……。
♢
程なくしてフィリアが部屋に入ってきた。フィリアの上司かと思われる男も一緒だった。
「ヒロ君、今回のクエストについて、本当にごめんなさい……。各村からもクエスト成功の知らせが届いたのだけど、それぞれかなりの大量発生だったみたいで……。一人の冒険者に依頼する内容ではなかったわ……。」
フィリアは深く頭を下げた。
隣の男は続けて話し始める。
「やぁ、初めて顔を合わせるね。僕はハンド・サム。冒険者ギルド、リンカータウン支部の長だ。サムと呼んでくれ。」
へぇ〜……、ギルドマスターにお目にかかれるとは、びっくり。それにしても、ハンド・サムとは……、まぁ、その名の通りの色男なんだけど。今じゃ死語じゃない?それにしても、全く年齢の想像がつかない。
「今回は、かなり危険なクエストを割り振ってしまった。冒険者ギルドは冒険者を護らなくてはならないのに、本当に済まなかった……。」
ギルド長は、フィリアに合わせて深く頭を下げる。そして、今回のクエストの成功報酬にギルドからの慰労金を上乗せしてくれるとの申し出をいただき、ありがたく受け取る事にした。
「それと、今回のクエストの成功による功績はD級への昇格の条件を充分達成していると考えた。なので、近々、君にD級冒険者へ昇格してもらおうと思っている。受けて貰えるね?」
今回のゴブリン討伐は、そんなに評価してもらえているのか。ちょっとびっくり。
『ちょっと、ちょっと! 私はどうなっているのよ! アリウムのリーダーは私なんだけど!?』
今まで静かだったおしゃべり妖精が騒ぎだす。
そうだ、今回はアメワの協力もあったんだ。その旨をギルド長に話すと、まだF級冒険者としての席の残っていたアメワにもE級昇格の手続きをしてくれることになった。
おしゃべり妖精はというと……。
「なんでよ! 私がいなきゃ、ヒロはダメなの!だから私もD級にさしなさいっ!」
そもそも、魔物を自分で討伐していないおしゃべり妖精は、パーティーとしての功績しか付与されおらず、個人ではまだF級だった。今回のパーティーとしての功績でE級へ昇格したのだが、E級止まりな事になかなか納得してくれない。まぁ、しょうがない事なわけだし、そのうち収まるでしょ。
「――今回のクエストについてだが、何か報告などはないかな。」
さて、どう話そうか。