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元魔術師、怒る


――っ!? アメワ??


 アメワのあまりに激昂した様子に、俺は何故アメワここまで取り乱しているのか、すぐには理解できなかった。

 しかし、カヒコの死の原因が、この悪なる神の使徒にあると考えついたアメワは、その怒りの矛先を氷狼へとぶつけていることに気付く。



『――ダンジョンで死んだ奴の身内か……。』



 今にも氷狼に掴み掛かかりそうなアメワだが、怒りに震えながらも、なんとか理性でそれを抑えている。

 俺はそんなアメワの腕を握った。なんとかその場に押し止まってもらえるように……。


「アメワ、待って、落ち着いて……。」


「――落ち着いていられる訳がないでしょう! ねえ、ヒロ君……、この人のせいでカヒコは死んだのよっ! 許せるわけがないじゃないっ!」


 アメワはひとしきり叫んだあと、その場にへたり込んだ。俺は何も言えずにアメワの肩に手を置いて、側に寄り添うことしかできないでいた。



『――なぁ、嬢ちゃん。その死んだ奴ってのは、お前の男か何かだったのか? そりゃ残念だったな……。だがな、お前の男は自らが考えてダンジョンに挑戦し、力を尽くして、そして負けたんだろ。誰かに命令されてやっていた訳じゃない。自分のやりたいようにやった結果だ。ただ、たまたまダンジョンで魔物に殺されたってだけだ。』


 氷狼は空を見上げ、腕組みをしながら話し出した。


『何も考えず、家畜のように、ただただ与えられたものを身に纏い、食べて、寝て、いずれ死ぬ。そんなつまらない人生じゃない。お前の男は希望を持って何かに挑戦し、生きて、死んだ。それは、たとえ短い人生だったとしても、しっかりと自分のやりたいように生き抜いたってことなんだよ。』


 氷狼は静かに話し続ける。


『――俺は謝らないぜ? お前たちだって、魔物を殺して魔石を手に入れ、それを使って生活してるんだろ? お前たちが魔物と呼ぶ連中にだって命がある。同じように生きて、死ぬんだ。それが例え短く、儚い一生だったとしてもな……。それなのに、お前達だけが傷つき死ぬのはダメだ、おかしいって言うのは、そりゃ、筋が通らないだろ?』


 氷狼はそう言って話を一度切ると、だいたいお前たちは、ウカ様の御心も知らず、勝手なことばかりいいやがってなどと、最後は独りごちていた。



『誰もがチャレンジし続けて、自分を高めていく。ただ与えられるだけじゃない。ダンジョンって所は、そういう所なんだよ……。』



 氷狼が繰り返し言う「お前達の勝手な常識」と言う言葉。俺たちが知らない事はたしかに多いのだろう。おそらく、悪なる神が関係している事だったりするのだろうし、ヒルコという仮面の主について関係しているのかもしれない。


 実際の当事者達にしか知り得ないものは多い。

 それについて、はっきりと俺たちに教えてくれる訳ではないようだし……。


 ただ、氷狼はカヒコが死んだ原因でもあるが、ナミを助けてもらった恩人でもある。

 簡単には割り切れない思いもあるが、俺はアメワのように一方的に、氷狼だけを攻める気にはならなかった。



『まぁよ。俺はこれからもダンジョン=リンカーアームにいるからよ。そいつの仇がとりたきゃ、いつでも俺に挑んできな。』


 顔を両手で覆い、泣き叫ぶアメワをナミの家の中へと連れていく。

 氷狼は家の中へは入ってこない。先程俺の事を待っていた時と同じように、また入り口脇に背中を預け、目を瞑っていた――



           ♢



「アメワ。僕はダンジョン=レッチェアームへ行ってくるよ。そこでヴァンパイアロードを探し出して、新月村のナギちゃんを助けてもらえるように頼んでくる。」


 家の中で、虚ろな目で自分の手を見つめているアメワに話しかける。



「フェンリルさんは、理由あって新月村には行けないそうなんだ。だから、昔、僕の母親を助けてくれたというヴァンパイアロードを探し出して、頼むしかないんだ。」


 アメワは黙ったままだ。



「アメワ。君はここでナミちゃん達を頼むね。フェンリルさんの眷属になったせいで、せっかく命が助かっても、村の人たちに何かされないとも限らないから……。」


 俺は、自分自身の体験や、母が受けたような他人からの執拗な嫌がらせなんかをナミちゃんが受けることが無いようにと願う。



「………あと、僕の父親もフェンリルさんの眷属だったみたい……。君の今の心境を考えれば、フェンリルさんと縁がある僕と一緒にいるのも辛いだろうし。」


 そこで初めてアメワが俺の顔を見た。

 カヒコの死を思い出した悲しみと、俺の出自や俺の育ってきた境遇を思いだし、ごちゃ混ぜになった感情は、言葉にだせるものではないのだろう。



「だから、今までありがとう。アメワのおかげで無茶な作戦も上手くやることができたよ。ナギちゃんを助けることができたら、またこの村に顔をだすね。それまで、元気で――。」



 俺は、ナミの両親にそっと目配せし、静かに家を出た。


 アメワが今度こそ、カヒコの死から立ち直ってくれるように、そして、出会った頃のような笑顔を取り戻すことを切に願いながら。――


 

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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