氷狼と少年
「あ、あの……。僕はヒロといいます。E級冒険者です……。」
何者かと問われても、嫌われ者のいじめられっ子です……、なんて言うのもおかしいし、冒険者として、ダンジョンの攻略を目指しているとしか答えようがなかった。
『ん〜、そんな事を聞きたいんじゃねぇんだよ。お前の匂いが途中で消えた。たしか、うちのダンジョンで見かけた時もそうだった。お前、ほんと何者なんだ?』
匂いが消えたって言われても……。なんのことかさっぱりわからない。ていうか、俺はダンジョンの中で氷狼に出会ったなんて記憶は無いのだが……。
『ヒルコの仮面に触れているのに、奴の支配を全く受けてないのも不思議だ。ヒルコの手下ってわけでもなさそうだしな。』
いやいや、何度も名前が出てるけど、ヒルコって誰!?
「……………。」
『―――。』
「………あ!? もしかしたら、僕の第一の才能が関係しているのかも……。」
俺の才能。『アンチ』の拒絶の力とスキル障壁の力。これらのおかげで自分とその周りとが隔絶されている。そのせいで、自分の匂い? が外に漏れなくなっているのかも。
魔物の攻撃や魔法を防げることも、人と触れ合う事ができずにいたことも、『アンチ』の能力であることは確定している。
そして、今回、ヒルコの仮面とやらの影響を受けてないという事についても、これであれば説明できるだろう。
匂いが消えたというのも、あの時、氷狼に対しての警戒心から障壁を張った為、アンチの拒絶の力が強くなったと考えられば自然だ。
俺は、恐る恐るこの話を氷狼にしてみた。
『アンチ』――おそらく俺だけの才能であり、能力。この事について、俺の頭の中では確信はあるが、実際に確かめたわけではない。その為、あくまでも予想の話だと前置きをして。
「――おそらく、僕の能力は全てを拒絶し、また、周りからも隔絶されるのだと思います。」
そう言って俺は障壁を消す。
氷狼は、俺の話を最後まで身動きひとつせずに聞いていた。そして、『そうか。』と短い返事をしただけで、腕を組んで何か考え始めた。
( コイツの能力が本物なら、もしかするとウカ様を助けることができるかもしれない……。しかし、ダンジョンで見たこいつの力では全然足りなさすぎる……。期待はできんか……。)
氷狼は考えが纏まったのか、俺を見据えて言い放った。
『お前の話は信用してやろう。だが、お前には力が足りなさすぎる。全ての攻撃を拒絶できようが、相手を倒せなければ、ダンジョンなんか攻略できねぇだろ。だから、さっさと力をつけて、すげぇ冒険者になってみせやがれ。(――そうなったら、改めてお前に期待してやるよ。)』
何故かひとりで納得した様子の氷狼から激励された。ダンジョンを守護している相手にもっと強くなってダンジョンを攻略しろって言われるとは……。
なんか釈然としないのだが……。
「あの……、ところで、僕はあなたにお会いした事があるのですか?」
氷狼の言葉で、気になっていた部分に触れてみる。こちとら、地下10階までしか行ったことがないのだ。ダンジョンの最奥で悪なる神の身体を守っている存在なんかに、到底出会えるはずがないのだ。
『はぁ? あるって言ってんだろ。……だからよ、俺がダンジョンの最奥に居るだなんて、誰がそんな事決めたんだよ。今、俺はお前の目の前に居るじゃねえか。俺はダンジョンの中のどこにだって行けるし、こうやってダンジョンの外にだって出られる。ヒルコ以外の使徒はみんなそうだ。勝手にお前らの常識を押し付けるんじゃねぇ。』
氷狼は、面白くなさそうな顔で話を続ける。
『だいたいよ、ダンジョンの最奥なんてただの行き止まりだ。ウカ様の身体の一部が封印されてるなんて嘘っぱちの伝説だ。そこにはなんにもありゃしねぇよ。強いて言えば、ダンジョンそのものがウカ様だからな。』
サラッと重大な事実を知ってしまった……
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