食事前のメイド
「すみません、すみません、すみません……」
「ま、まぁ、メイドさんもそういうこともあるだろうしね。気にしないでいいよ」
そんな優しいことを言ってくれているがそれでは気がすまない。
どうして私は自分がダメイドだと分かっているのに掃除をしようとしたのだろうか……
別に部屋が汚れていたとかではないのだ。
ただ身体が疼いてついつい掃除をしたくなったのだ。
それがこうして飾っていた猫の置物を落として割ってしまったのだ。それも2個も。
私の目の前にはその割れた2個分の猫の置物の残骸がある。本当に申し訳ないことをした。
カルドさんはいいよ。いいよ。と言ってくれているけど
「そんな訳にはいきません。なにか私に出来ることをさせてください!!!」
「んなこといってもな……なら、料理はどうだ。シズクちゃんの料理を食べてみたいなー!!」
「ああぁ………明日お休みで大丈夫なら……」
「えっ??それってどういう意味……」
お望みならば作るのはいいんだけど
「見た目はいいんですけど、何故か私が作る料理はその……壊滅的にマズイです……」
「へぇ??えっ、でも、メイド……だよね??」
「カルドさん。メイドにも、色々いるんですよ………」
遠い目をしてしまっていたのか、「わ、悪かった……」と納得してそれ以上いうことはなかった。しかしあの料理の犠牲者を増やすわけにはいかない。
だけど何故か私が私の料理を食べる分はなんの問題もないのが不思議なのだ。だからいくら味見してもそれが美味しいと感じているために、本当に美味しいという味にしようとしても出来ないのだ。
「本当に気にしなくていいんだよ。ほらさっさと席についてご飯を食べな!!」
「で、でも……」
「いまのアンタは私達のお客様なんだ。ほらこっちにおいで」
そんな風におかみさんに言われて席につくことにした。
まぁ気にするなよ。と一言カルドさんは言った後に厨房へと向かう背中を見ながら席についた。
どうやらカルドさんは朝から夕方まで検問の仕事をしたあと、夕方から夜をこの実家の手伝いをしているようだ。
「すぐに用意するよ。好き嫌いはないだろうね」
「はい。何でも食べれます」
「えらい!!あのバカ息子は未だに人参が…」
「余計なことを言ってんじゃねえ!!!」
聞き耳立てる暇があるならさっさとやりな!!とまた喧嘩を始める親子。本当にこれが日常茶飯事なんだなーと軽く息をもらした。
しかしこのちょっとした時間。何かをしていないとなんかもどかしい。もう掃除とかはしないとしてもメイドとして何かをとついつい考えてしまう。
するとこの大部屋にここの宿泊客が入ってきた。もちろん私だけなんて思っていなかったけどその服を見ると冒険者。という感じの人達が多い。
一般客もいるけど冒険者がこうして宿屋を利用する姿を見ると改めて自分が異世界にいるんだなーと感じる。
「おっ!今日はメイドがいるんじゃねえか!」
「いいなーお酌してくれよ!!」
なんか私がここで働いていると勘違いしているみたいだ。それも何処かで飲んできているのだろう。顔が赤く目が虚ろになっている。
「いえ。私はここのメイドではなく……」
「メイドはメイドだろうが!さっさとしろよ!!」
はぁ~。どうしてメイドと見たらそんな風に勘違いするのだろうか。あくまでもメイドはご主人様に使えている一種の職業。その他の人に奉仕するのはご主人様に恥をかかせないためにやっているだけのこと。
しかしここでゴネていたら更にここに迷惑をかけてしまうかもしれない。仕方ないなーと立ち上がりお酌をしようとしたら
「お前ら!!こっちのシズクちゃんはお客なんだよ!!お酌して欲しかったらうちのお袋にでも頼むんだな!!!!」
「カルドにしてはいいこと言ったね!!
ほらお酌してやるからこっちにきな!!!」
「い、いや、別にその……」
「あぁ!!?この子がよくて私がダメだっていうのかいッッ!!!!??」
「「そんなことありません!!!!」」
カルドさんとおかみさんの機転によって酔っぱらいの冒険者2人が肩身をせまくしながら部屋の端っこへと移動させられた。
「悪かったなシズクちゃん。彼奴等にはキツく言っておくよ」
「いえ。ありがとうございます」
「あのバカ共は普段はいい奴なんだよ。酒癖が悪いのが難点なんだよなーったく……
料理を持ってくるから思う存分楽しんでくれ」
いい人だなーと思いながら料理を待っていると
「………えっ」
「沢山食べていってくれな!!」
そこには女性1人じゃ食べきれないほどの料理がテーブル一杯に……ちょっ、ちょっとまって……こんなに食べられ……
「遠慮しなくていいからねー!!!」
「迷惑料と受け取ってください」
「大丈夫大丈夫。うちの料理はウメェから入るよ!!!」
「は、はい……」
いい人だ。だけど、やり過ぎって誰か1人ぐらい分かってほしかったな……
「タッパーとか……ないよね………」
こんなにも親切にしてくれるカルドさん一家。
そのご厚意を無駄にしないためにも頑張って目の前の料理を食べようと決意したシズクだった。