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ユリウスの知り合いと出会うメイド

「と、遠い……」


歩き始めてどれぐらい経ったのか。

未だに隣町が見えてこない。

お屋敷の周りにある森を抜けて橋を渡り、二股になっている道を右に曲がってしばらく歩いたというのにまだ着かない。


感覚的にはもう着いていいころなのに、こういう時に時計が無いのが悔やまれる。この世界に来た時はスマホがあればいいと思っていたけど、バッテリーが切れればただの重たい物体。腕時計も電池式しか持っていなかったからどうしようもなかったけど、こういう時に向こうの友達と話していたソーラー式の腕時計が本気で欲しくなった。


「って、みんな……元気かな……」


ママを待って10年。もちろん元の世界に帰れるわけもなくこの異世界に居続けた。初めはすぐに帰ってくるだろうと思っていたママもいつまで帰ってこなくて何度も泣いたことある。そして友達に会いたいと懇願したこともある。


それがこの10年の間に思い出として思い出すなんて……

もちろん友達にも会いたいし、元の世界にも帰りたい。

だけどそれよりもまずはママに会いたいという気持ちが強いし、その次にパパにも会いたいのだ。


ここには新しく出来た友達もメイド長もいる。

隣町に行くだけでこんなにも泣いたんだ。元の世界に戻る時はどうなるんだろうとなんか面白くなって思わず笑ってしまった。


するとタイミングよくお腹が鳴りお昼休憩をすることにした。

メイド長は言った。「メイドたるものスキマ時間に食事を取ること。優先するのはお客様」と教わり、大体お昼前にはお昼ご飯を食べていたので身体が反応したのだ。


つまりはまだお昼前。その現実にまだ隣町には着かないんだーとちょっと凹みながらも丁度腰掛けられる岩に座りお弁当を食べることにした。


持ってきた大きめのボストンバッグ。その中からお弁当を取り出して広げてみる。するとそこには普段では食べれないようなおかずが沢山入っていた。

この異世界にもある卵焼き。でもただの卵焼きではなく、この輝きは滅多に取れないと言われる黄金に輝く鶏の卵で作られた卵焼き。

隣にはお肉があるのだが明らかにご主人様が食べるような高級なお肉が入っていて、他にもご主人が食べるであろうと思われる食べ物がお弁当に入っていた。


「……メイド長……ありがとうございます……」


たまに盗み食いをして怒られていたあの頃を思い出しながら、今回は堂々と食べようと意気込んで、まずはこの卵焼きから箸で取り口に入れた。


「〜〜ッッ!!!!!??」


とんでもなく美味しい!!

もうどう言葉として表現すればいいか分からないぐらいに美味しい!!

その隣のお肉もその他のおかずも、どれもこれも悶絶させるほどに美味しくて美味しくて。


あっという間にお弁当を食べてしまった時は「もったいないことをした!!」と少し後悔をしてしまった。きっとこんな高級なお弁当はあのお屋敷にまた入る時以外はないだろう。


ボストンバッグにお弁当箱を片付けてしまい再び歩こうとしたとき


「……なに、あれ……」


隣町の方向、その道の先に何かがある。

遠すぎてよく見えないからちょっと見てみようと思い、軽くなった足で少し早歩きで行ってみると


「…………えーーと……」

「……………」


何故か1人の男性が倒れていた。

それも仰向けになり胸元に両手を重ねて、まるで死人じゃないかと思わせる体勢で倒れている。

いや、これは倒れているのか??死んでいるのか??


まぁ、顔色はいいので死んではいない。

これもメイドの心得一つ。お客様の顔色を見ろというやつである。


ならなんでこんな体勢で倒れているのか??

これは面倒くさいことに巻き込まれそうだと思いスルーしようとしたが


「助けてください」

「…………なんでしょうか??」


目を見開きこっちをハッキリと捉えた状態でそんな事を言っていた為に、シズクも仕方なくそう答えるしかなかった。


「お腹が空きました。食べ物をください」

「あぁ…行き倒れですか…あいにくさっきお弁当を食べてしまって……」


「そのポケットにあるビスケットで大丈夫です」

「なんで分かるのッ!!!……こわ……」


思わずタメ口になったがこの人は大丈夫だろうと本能が告げたので気にしないことにした。


「そんなに引かなくても……匂いだよ匂い」

「それでも怖いですよ……」

「それで、くれないかい??」

「……はぁ、分かりました……」


ビスケットを渡してさっさとこの場から去ろう。そう決めてポケットからビスケットを取り出してその男に渡した。

いざという時の非常食だったが、仕方ない。


「ありがとうね。何かお詫びをしないと…」

「いえ。いりません。それでは」

「ちょっと待って。この先の町に行こうとしているんだよね」

「それがなにか??」


正直これ以上関わりたくないのだがなにやらゴソゴソと自身の身体を弄って探しているのを見てもう少しだけと自分に言い聞かせて待つことした。


「えーと……あったあった。はい、これ」

「なんですかコレは??」

「君みたいなメイドさんがあの町にスムーズに入る為の、まぁお守りみたいなものだよ」


手渡されたのは刻印された木の板。

どこの刻印かは分からないが刻印があるだけでそれなりの貴族、上級階級だと思われた。


「これは失礼しました」

「これが分かるなんて、大したメイドさんだね」


「いえ。何処の貴族様かは分かりませんがそれでも失礼をしたことには変わりないので」

「気にしないでいいよ。こんな身なりの貴族なんて見ないだろうし」


確かに身なりが本当にごく一般人と同じなのだ。それどころか貴族特有の仕草や作法のようなものさえも見当たらなかった。

ただこの言葉を言った瞬間から貴族特有のものが出てきたのでびっくりした。


「びっくりしたかい??

元々は一般人なんだよ。それから成り上がって今がある。だからこうやってお忍びで外に出る時は使えるんだよ」


「は、はぁ…、ではさっきまでの行き倒れも演技だったと……」

「それは本当だよ。軽い気持ちで町の外に出たらまさか食べ物がこんなにもないなんて……やっぱり1人で来るものじゃないねー」


……本当に元一般人なんだろうか??

町の外に出れば食べ物なんて自給自足。

それこそお弁当とか自分で用意しないと行き倒れることなんて分かり切っている。


それが分からないのだ。

元一般人でもそれなりのいい所で暮らしていたということなのだろう。


「失礼でなければどうして町の外に出たのですか??」

「ちょっと知り合いにね会いたくて。まぁもう会えないとは分かっているんだけど……」


「は、はぁ……」

「それでも会いたくて外に出た。

まぁこうして行き倒れたら元も子もないけどね」


よく分からない人だ。

掴みようのないふわふわした感じであるが、それでも何処か芯が通ったような……


「確か君みたいなメイドさんがいるお屋敷に住んでいたと思うんだけど……」

「それでは目指していたのはアイレンス家だったのですか??」


「おっ。やっぱりそこのメイドさんだったかー。ユリウス・アイレンス。君の元ご主人様の友人なんだ。」


私のご主人様。ユリウス・アイレンス様。

メイドとして雇ってくれた心優しき人。

ダメイドな私をずっとメイドとして雇ってくれた人だ。


「私の名前はサルヴァ・ミストレイ。

君の名前を伺っても??」

「私はシズク・アサイといいます」


「君が……まさか、こんな形で会うとは…」


それはどういう意味か?と訪ねようとしたが小声で何か事情がありそうだから聞くのを止めた。


「それで君は隣町に買い物かい??」

「……そんな所です」


つい誤魔化してしまった。


「それは邪魔してしまったね。

しかしメイド1人で買い物とは……この一帯はツノウサギぐらいしか出ないとはいえ危ないとしか言えないね」


深く追求はなかったが、別のことが気になったようだ。そうこの異世界では魔物という生き物がいる。動物とは違い濃ゆい魔力に影響されて凶暴化したのが魔物という。


その魔物は魔法使いと同じように魔法を使うやつもいるので気をつけないといけないが、ツノウサギはただ凶暴化しているだけだし、普通のウサギが凶暴化しているようなもの。しかしだけとはいえそれが複数体で来られたら大怪我する可能性もあるのだ。


「大丈夫です。キチンと魔物よけの鈴と、この防御が上がるお守りを持ってますので」


「………ほう」


それを出すと物珍しいそうにその2つを見るサルヴァ様。

魔物よけの鈴は珍しいものであるが、それよりも何故かお守りのほうが気になるようでジッと見てくる。


「あ、あの……」

「いや、珍しいものを持っているね。

何処で買ったのか教えてもらっても」


「あ、鈴の方はマ、母からです。お守りは私が作りました」


するとさらに目の色が変わったかのようになったサルヴァ様はグッと私に近づき


「これを君が??この魔力石も君が……」

「そっちは貰い物です!!誰とは言えませんがそれを私が加工しました!!」


魔力石に魔力を込められるということは伏せておかないといけない。知られたら魔法使いとして学校に入れられる可能性がある。

いまの私にはそんな所に行きたいとは思わない。お店を開いてのんびりとママを待つつもりだから。


「………そうか。いや、それでもとても素晴らしいものだ!!是非とも私も一つ欲しいほどに」


「ちょ、ちょっと今は持っていなくて……魔力石だけならお譲り出来ますが……」


これ以上色々聞かれるとボロが出そうなのでサルヴァ様が欲しいと思われた物を渡して興味をズラそうと考えた。流石に手持ちでネックレスは持っていないが魔力石なら何個か持っている。そのうちの一つを取り出して


「体力向上の魔力石です。持っているだけでも少しは効果があると思います」


「いいのかい?」

「はい。またお会いした時にアクセサリーに加工しますので」


「それは楽しみだ。ではそれまでは預からせてもらおう」


なんとなくサルヴァ様とはまた会うような気がした。だから抵抗なく魔力石を渡せたのだろう。

でも次会った時には解雇されたってことはバレているだろうなー


「それではこれで失礼します。サルヴァ様お気をつけて」

「あぁ。ありがとう。私はもう少しぶらついてから戻るとしよう」


少なくともお屋敷に行かれるまではバレないだろう。

でも本当に大丈夫だろうか。いくらビスケットを食べたとはいえまた行き倒れていなければいいけど……と、考えながら隣町に向けてまた歩き出した。



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