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夢を見るメイド

「雫。異世界にいくわよ」

「………ママ、温泉にいこうか」


これは夢だとわかった。

だってこれは私がシズクではなく、雫であった7歳の頃だから。

物事を判断し決断出来るようになってくる年頃の頃に母親からそんな突拍子も無いことを言われた。

ママは女一人で私を育ててくれている大切な存在。

いつも遅くまで仕事をして、それでも休みの日は一緒にいてくれる。

だからそんなことを言い出したときは「あっ。疲れが溜まってるんだ」と思いママに温泉に行くことを提案した。


「温泉!いいわねー異世界にもあったかしらー」

「……ママ。とにかくその異世界から放れない??」


「でも雫。前にパパに会いたいって言っていたよね」

「えっ。なに?パパが異世界人って言いたいの??」


「パパが、というか私も異世界人よ」

「…………………」


ちょっと理解が追いつかない。

確かにこうして私がいるのだからパパがいるのだろうと聞いたことがある。小さい頃からパパがいない生活をしていて気にしていなかったが、友達の家にいくとパパがいるという姿を見て気になったのだ。


まぁ、それまでの間にパパという存在は分かっていたがあまり話たがらないママを気遣って聞くことはなかった。

でもどうしても気になった私はママに聞くことにした。

すると「いるわよー」といい、「会いたい??」と言われたので会いたいと答えた事がある。というかその会話が一週間前の話。


それが一週間後、こんな風に返ってくるなんて……理解が追いつかない………


「えっ、ええっ?何言ってるのママ??」

「まぁ混乱するわよね。もう少し大人になってからとは思っていたけど」

「そういう問題じゃない」

「でも私もいい加減にあの人に会いたいし、だから異世界に行こう」


どうやら決定事項らしい。

しかしそんな簡単に異世界って行けるものなのか??

よくアニメでは何かキッカケで異世界に行くというのはあるけど、そのキッカケがパパに会いたいから会いに行くなんて……


「そんな簡単に、行けるの??」

「いけるわよー私、優秀な魔法使いだからねー」


……またしてもとんでもないことを言われた。


「……えっ。ママ……魔法使いなの??」

「そうよ。ちなみにパパは騎士団長よ」

「なにその異世界恋愛的な展開はッ!?」

「ライトノベルを読ませて正解だったわねー」


そう。この異世界の知識はママから勧められたライトノベルによるものである。確かにこのおかげである程度冷静にいられるけど……そういうことではない。


「……じゃ、この私が異世界ものが好きな理由を作ったのって……」

「こういう時にスムーズに進めるためよ」

「もううううぅぅーー!!!」

「ゴメンゴメン!!」


思う通りにやらされたことにムカついて結構強くママを叩く私。

それでもママは笑って謝る所をみると本気で怒れない。


「……本気、なんだよね??」

「そうじゃなきゃこんなこと言わないわよ」

「だよね。……いつ行くの?」

「今からよ」

「ママッ!!!!」


コレは本気で怒っていい。

あまり語らないママであるがこういう時に重要なことをいうのは卑怯である。

一通りママとケンカしたあと荷造りをし始めた。

異世界だ。簡単に帰ってこれるか分からない。

ママは近所のコンビニにいく感覚でラフな姿をしている。


「そんな簡単でいいの??」

「会いに行くだけだからね。一泊二日よ」

「だからといって荷物無さすぎじゃ……」

「向こうに私の私物あるから大丈夫よ……多分……」


これはダメだと思いこっそりママの分の衣服も入れておいた。

何処か抜けているママ。こういう時私がしっかりしないといけないというのは染み付いている。

まさか異世界にいくのにここまで私がやらないといけないなんて……


「それでどうやっていくの??魔法陣とか」

「昔から好きよねー魔法陣。合ってるわよ」

「おおぉー!!」


ちょっとテンションが上がってきた。

突然のことだけど、パパに会いに行くだけど、それでも異世界に行くのだ。それも魔法陣で行くなんて異世界マニアからしたらたまらないものがある。


ママはポケットから紙を取り出してボールペンで何かを書き出した。

えっ。まさか……と思い、見守っていると出来た!と言って


「はい。魔法陣」

「簡単すぎない!?」

「まさか血で書くとか思っていたクチなの??あれ痛いし貧血になるから嫌なのよ」

「それは分かるけど……せめて羽ペンとか……」


書いたものに文句をいうのはおかしいかもしれないけど、異世界として定番というものがある。それを1本100円(税抜き)のボールペンで書くなんて……


「要はキチンと魔法陣として発動すれば何でもいいのよ。血の方が魔力が通りやすいってだけなの」

「そんなものなの」

「そんなものなのよ。ちなみに雫も魔力持ってるわよ」


さて行きましょうか。と軽い感じで異世界に行こうとしたママを思いっきり引き止めた。いま、なんて言った!?


「私にも魔力あるの!!?」

「そりゃあるわよ。いわばアンタも異世界人だからね。私に似て魔法使いになれるかもねー」


「おおおおおおおおおぉぉぉぉ!!!!!」

「今日1番のいい声出したわね……」


だって魔法を使えるなんて夢物語なことが、私に出来るなんて!!

誕生日に好きなプレゼントを貰ったと同じくらいに嬉しい!!


「まぁ魔法を使うために修行しないといけないし、その修行をするためには学校に通う必要があるの。一泊二日じゃ何にも出来ないわよ」

「えぇー」

「もう異世界に抵抗なくなってるわね……私だって魔法を使うまでに2年。一人前になるまでに10年かかったんだから」


そううまくいかないみたいだ。それでも私には魔力があり魔法使いになれるという事は本当に嬉しい。


「いつか私も魔法使いになれるかなー」

「やりたいなら魔法を教えてあげるわよ。こっちでも使えるしね」

「そうなの!?」

「じゃないと今から異世界に行けないでしょう」


確かにそうだ。それならこっちの世界で魔法使いになれば私はママと2人だけの魔法使いに!!


「言っておくけど魔法を教えても普段使ったらダメだからね」

「えぇー!なんでダメなの??」

「普段にバレたら面倒なことになるでしょうが。それにこっちじゃ魔力を貯めるのにかなりの時間がかかるの。今回パパに会って、次に会うにしても3年はかかるわよ」


3年!?そんなに時間がかかることに驚いた。

魔法陣もあんなに簡単に書いたし、コンビニいく感覚で異世界に行くって行ったからすぐに行けるかと思っていたのに……


「……ねぇ、それならちょっと長めの休みの日にしたほうが良くない??」

「そうなると私が行く気になれない。長期休みは家でダラダラしたい」

「ママ〜!!」

「まぁまぁ。向こうはね、こっちより魔力を貯めるのは早いの。だから一泊二日で大丈夫だし、それに魔力を回復する薬もあるの。ちょっと高いけどパパに買ってもらえば一年ぐらいでまた会えるわよ」


なるほど。鉄板な魔力回復薬もあるのか。

それなら初めてパパにおねだりするのは魔力回復薬にしよう。


「それじゃ行くわよ。ちょっとした小旅行って気分で行けばいいの」

「そうだね。よし!めいいっぱい楽しもうー!!」

「じゃいくわよー」


床に置いた魔法陣に片手で触れるママ。

多分そこに魔力を込めているのだろう。少しづつその魔法陣が光だし湯気のように立ち込めていく。


ワクワクするなーと楽しみにしていた私。

このあと、こんな風にメイドなるなんて。

ママと別れて10年。未だに帰ってこないママをこのお屋敷で待てなくなるなんてこのときは想像も出来なかった。

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