眠れないメイド
「クビされた〜ッ!!!??」
「うん。いままでありがとうユイ」
「なんでそんな簡単に諦めるのよ!!ご主人様に文句を!!」
「やめなさいユイ。そしたら貴女もクビになるわよ」
「グッ」と声を出して耐えるユイ。そして宥めるリファー
二人は小さい頃からの同期でここまで一緒にメイドをやってきた幼馴染。
いつもドジをする私をフォローをしてくれていた2人だったけど、これからはそれもなくなるんだね。
「だ、だって……シ、シズクが……!!」
「ご主人様の決定は絶対よ。
それに何かあるからこうして話にきたんでしょう??」
「そ、そうなの??」
「えぇ。隣町でハンドメイドのお店を開こうと思うの」
その言葉にユイとリファーがお互いに見つめ合ったのちにシズクに近寄り
「すっっっごくいいと思うわッ!!!」
「えぇ!!天職と思うぐらいにあってるわよ!!」
「あ、ありがとう、二人共」
そんな食い気味に言わなくても……それではこれまでやってきたメイドの仕事が……って、誇れるほどメイドの仕事は出来ていなかったけど……
「そっか。ハンドメイド店ね〜
シズクはそういうのについては手先が器用だからすぐにお店は繁盛になるわね!!」
「休みの日には買いに行くわ。もちろんシズクに会いに行くが前提よ」
「来てくれるだけでも嬉しい」
何も言わずにお互いに抱き合う3人。
それでもここからシズクが出ていくことには変わりない。
これまで共に過ごしてきた生活が一変するのだ。寂しくない。なんてことはない。
「いつ、出ていくの??」
「明日の朝には」
「一晩泊めてもらうだけ良かったわ」
「実際はこのまま出ていけッて感じだったわ」
「なんなのあの新頭首はッ!!」
「やめなさい。私達はただのメイドなのよ」
頭首の振る舞いにすぐに沸騰するヤカンのように怒りだすユイ。それを宥めるリファー。そんな2人を暖かく見守るシズク。
この関係もしばらくはお預けとなる。
簡単に会える形ではなくなる。
「じゃ今日はここで寝ていくわよね!!」
「メイド長も怒らないでしょう」
「でも見つかる前には出ていくからね」
そういってシングルベッドを2つくっつけて3人がそのベッドに入る。真ん中にシズク、右にユイ、左にリファー。
この並びは昔から決まっていて普段の立ち位置も同じ。
「でもさ、本当にご主人様見る目ないよね〜」
「まだ言ってるのユイ」
「だって!!それはシズクはメイドとしてダメだけど」
「ハッキリ言わなくても……」
「それでも他の人よりも努力してる!困った時に頼りになっていたのはシズクだよ!!」
「そっか。今度からは自分達でしないといけないのか……」
例えば割れたコップを元通りに直したり、ガタつく棚を1から作り出し前よりも素敵な棚を作ったり、忙しい時の段取りを仕切るのもシズクがやっていたのだ。
メイドという家事全般は出来ない。しかしそれ以外なら本当に完璧と言うほどの実力を持っているシズク。しかし頭首はそんな所は見ていない。あくまでも頭首はメイドとして使えるかどうかなのだ。
「メイド長もいるんだから大丈夫よ」
「でもメイド長、コレ作れないでしょう??」
そういって胸元から引っ張り出したのはネックレス。小さな薄緑色の石がはめられたシンプルなネックレス。
体力上昇のお守り。
これは私が作ったアクセサリーの一つ。
魔力石に魔力を込めて作ったものだ。
「それはね。魔力を扱える人滅多にいないし」
「そこを魔法を使う。じゃなくて物作りに当てる所がシズクよね」
「私だったら魔法を使ってババーン!!ってやっちゃうんだけどなー」
この世界には魔力がある。
それはそこら中に、自分の中にも。
ただそれを扱う人間が極端に低い。
そして魔力を使って魔法を使うのが魔法使い。
私はその魔力を物作りに使うメイド。
「メイド長もちょっとは魔力使えるわよ。ただ必要としないだけ」
「なんで二人共もっと派手に使わないのかなー」
「そんなことしたら魔法使いとして国に引っ張られるわよ」
貴重な魔力を使う人間。
使えるものは魔法使いにするべく国が管理する。
ほとんどの魔力を使う人間は魔法使いになりたくて国に自ら申請する。
私やメイド長はそれを隠している。
別に魔法使いにならなくてもいい。私達はメイドをやりたいのだ。と昔にメイド長と話たことがある。
「お店を開くのはいいけど魔力が使える。なんてバレないようにしなさいよね」
「うん。魔力石を使ったやつは作らないよ」
「これは私達だけのもの。だね!!」
その満面の笑みにリファーもネックレスを取り出してきた。リファーには赤の魔力石で力を向上させるお守り。そして私が取り出したのは黄色で防御を向上させるお守り。
初めて魔力石のアクセサリーが出来た記念に作った3つのネックレス。
ちなみにそのアクセサリー。
私達の3色が入っている魔力石のピアスはメイド長のお誕生日に渡した。
「魔力が切れそうになったらメイド長に頼んでね」
「えぇ~!シズクのお店にいってしてもらう」
「いやうまく休み取れなかったらどうするの??」
「節約するしかないか……不便ね……」
「アハハ………」
そんな雑談は時計が頂点を超えるまで続いた。
誰もがこんな当たり前を無くしたくないと感じていたからこそ、誰も寝ようという言葉を言わず自然に眠りにつくまで話すは続いた。