解雇されたメイド
「アサイくん、君はクビだ」
「……なんで、でしょうか??」
「家事も何も出来ないメイドをいつまでも雇うとでも思っていたのかい??」
「…そうですか。分かりました」
それはあまりにも突然の解雇。
いや頭の何処かでは分かっていたことだ。
この大きなお屋敷のメイドとして10年。
幼少期から育ててくれた恩義を返すためにもメイドとして働いていたが……ダメだったようだ。
「私がお前の新しいご主人となったのだ。
まずはいらないものを徹底して排除する。
その手始めが、アサイくん、君だ」
何故それをワザワザいうのだろうか。
よほど私が気に入らなかったのだろうか。
確かにここの他のメイドに比べたら私はダメなほうだ。
だからといって前のご主人様が亡くなってすぐにリストラするなんて………よほど私を排除したかったのだろう。
「さぁ、さっさとこの屋敷から出ていきなさい」
「せめて一晩だけでもダメでしょうか。
この季節で、この時間、出ていけば私は死んでしまいます」
真冬でもう夕方。
そんな中をお屋敷から出て隣町まで行くのに半日かかる距離を歩けばどうなるか……
「………一晩だけだ。朝一にでていけ」
「ありがとうございます。いままでお世話になりました」
頭を下げて部屋から出た私。
ふぅ、と短い息を吐き頭を切り替えて部屋の荷物を片付けようと踏み出したとき声をかけられた。
「シズク」
「メイド長」
この屋敷のメイドを取り纏めるメイド長。
いつも厳しく指導をして私達メイドを育ててくれた恩人の1人。
「ご主人様はなんと……」
「解雇と言われました」
「……そうですか…」
「……はい……」
メイド長もここのメイド達も前のご主人様も今のご主人様も皆知っている。私はメイドとしてはダメだと。
基本的な掃除も料理も出来ず、言われたことをひたすら没頭して周りの話を聞かないダメメイド。略してダメイド。
それでも必死にやって、やっと及第点をメイド長からもらったばかりなのに……
「すみません。ここまで育ててもらったのに……」
「まだまだメイドとしてはダメです。
……それでも貴女はメイドとして立派でした」
そういいながら頭を撫でてくれるメイド長。
この人のこんな母親みたいな所が私は好きだ。
だからこそもっと頑張ってメイドを極めたかったのに……
「これからどうするつもりですか??」
「隣町にいってメイドをするつもりです。
……雇ってもらってもすぐにクビになりそうですが……」
「口利きしたい所ですがお世辞にも貴方のメイドはまだまだ人前には出せませんから。」
この人の物事をハッキリ言うところも好きだけど、ここまで言わなくてもいいのではないかと思うこともある。
「そういえば貴女はアクセサリーを作るのが得意でしたよね」
「はい。料理とかにもいかせれば良かったのですが……」
私は俗に言う「ハンドメイド」が得意なメイドである。
アクセサリーからぬいぐるみ。最近ではDIYにもハマっている。
……メイドになるにはハンドメイドも必要と書いてあれば私は間違いなくメイドとしてやれていただろう。
「……お店を開きなさい、シズク」
「私、が……お店を………」
「貴女にはその才能がある。
きっと色んな人に喜ばれます。いつか私も買いに行きますから」
そんなことを考えたことなかった。
でも確かにそれはいいかもしれない。
メイドとしてはダメでもハンドメイドとしてならやっていける。
「分かりました。私"シズク アサイ"はメイドによるハンドメイドをやります」
「…いや、メイドは忘れてもいいんですが……まぁ、それも貴女ですものね………」
何故か呆れ顔をされたのが不思議だが方向性が見えた。そう考えるとここをやめてもやっていける気がしてきた。
「ユイ達にも話しています」
「もう遅いですから手短に。……くれぐれも騒がないようにしなさい……」
こう言ってくれるときはいつも夜更かしオッケイのサイン。基本的に規則正しくするのがメイドの努めだが息抜きも必要だとメイド長も知っている。だからこそ直接的なことは言えずともこうして言ってくれる。
「朝は手が離せませんからお迎えは出来ません」
「はい。わかってます」
「雫。今日までよく頑張ってくれました。
この先の貴女の活躍を楽しみにしてます」
「メイド長。いままでありがとうございました。」
頭を下げた私をソッと抱きしめてくれたメイド長。それに思わず私もメイド長に抱きつき思わず涙と声が出てしまった。それを咎めずに私の背中を撫でてくれた温もりを私はずっと忘れない。