炎刀が断ち切る
インカムを通してから室長より連絡がきた。
「二人ともまだよ!近くに大きな霊力を探知した!気を抜かないで!」
その連絡と同時に廊下の窓が次々と割れていった。
糸音と航は身を屈めて割れるガラスから身を守る。
外を見ると複数の腕が糸音と航へと襲う。さっきの悪霊と同じ技だ。
糸音が素早く刀を抜きこちらに飛んでくる腕を斬り捨てるも、次々と飛んでくるためキリがない。
「糸音!逃げるぞ!」
航と共に廊下を駆けていく。
廊下の突き当たりまで走り、飛んで来る腕に捕まりそうになった所で横へと飛び、そのまま階段を登る。
「これどうすんのよ」
「知らねぇよ」
航と言い合いをしながら、三階を目指して階段を登って行く。
次々と校舎のガラスが割れて行く。この修理って一体いくらするんだろう。
室長からは極力何も壊さないようにと言われているんだけど、、、。
「航。このままだと室長に怒られるわ。三階に上がると同時に一気に行くわよ」
「は?一気に行くっておぉぉぉぉぉい!」
私は航の腕を握ると同時に階段突き当たりのガラスを蹴り破り泣き叫ぶ航と共に三階から飛び降りた。
脚へと霊力を込めて肉体を強化し、グランドへ着地した。
隣で着地に失敗した航が私に掴みかかってくる。
「てぇめぇこの野郎!飛び降りるならもっと事前に言えよ!」
「だって仕方ないでしょ。あのまま校舎を走り回っていたら校舎の窓ガラスがもっと割られていたんだよ。室長に怒られるじゃん」
私と航が言い合ってると、インカムから室長の声が聞こえて来た。
「二人共校舎を壊しすぎよ。次何か壊したらどうなるか分かるわね」
航との言い合いが止まった。
室長より軽く圧を掛けられたことにより、思わず顔が引きつってしまう。
そんなくだらない言い合いをしている間に悪霊はすぐそこまで迫っていた。
「「あっ」」
伸びて来た腕が私の足を掴み、そのまま投げ飛ばされてしまった。
「糸音大丈夫か!?」
「痛ったい!何とか大丈夫だけど、、、もう怒ったわよ!」
地面に叩き付けられた身体を何とか起こし、スーツに土埃を払い落とし刀を抜いて悪霊へと向き直る。
改めて悪霊の姿を見ると見た目はさっきと同じ女性の見た目だが、、、何というか、図体が大きい。高さ三メートル程だろうか。そして全身青白く四つ這いの姿勢でいる。背中からは数え切れない程の腕が生えている。
しかもその腕の生え際の所にはさっきの女子高生が取り込まれていた。
「あの二人なんで?」
私の問いに耳元で室長が答える。
「糸音ちゃん。恐らくそいつが本体よ。さっき二人を倒したのはそいつの分身のようなもの。さらにその女の子二人から霊力を吸い取ることによって強化されたって所かしら」
「まだ2人とも生きているみたい。これならまだ助け出せるぞ糸音」
気を失っているが、上半身が表に出ており息もしている。まだ生きているなら助け出せるわ。
完全に霊気を吸われる前に助け出さなければ、とは言っても。
「ウォォォォォォォォ!!」
「凄い叫んでるんですけど。凄い怒っているんだけどりこれどうやって助けるのよ?」
作戦を考えたい所だけど、そんなのを敵が待ってくれる訳が無い。
腕が五本十本と次から次に私と航へ飛んでくる。
悪霊から一定の距離を保ったまま、攻撃を刀で受け流しつつ避けていく。
攻撃自体は単純ではあるものの、そのあまりの数の多さに近づく事が出来ない。
「危な!ちょっと航!何か良い案無いの!?このままだと私やられちゃうんだけど」
「ったく!お前こういう時って本当に人任せだよな?今から捕縛術を使う!数秒で良いから時間を稼いでれ!」
「了解」
注意を私だけに向ける為、悪霊のもとへ突っ込む。
悪霊の攻撃が全てこちらに向いた。
手数がさっきの比じゃない。こんなの一分も持たないんだけど。
「航まだ!?」
「闇を捕らえ、闇をこの地に平伏せ、神の名の下にその身を現わせ。砂縄鎖縛!!」
敵を中心に四方向から光の縄が飛んでいき、敵の身体を巻き付いた。
「ウォォォォォォォォ!!」
暴れようとするも縄を切る事はおろか、一歩たりとも動く事は出来ない。
糸音は刀を鞘へ収めると、脚を開き少し屈んで刀の柄に手を置き構えた。
身体に流れる霊気を上昇させていく。上昇していく霊気はやがて糸音の身体から溢れ、赤く炎の様な形で身体に纏い始める。
その後膨れ上がり身体に纏った霊気は一気に刀身へと収束されていく。
刀身が燃えている。
この暗く月明かりしか周囲を照らす物が無い闇の中を一人の少女が赤くそして輝いていた。
吸った息を吐く。
己の心を刀へと集中させた。次の一撃で確実に滅するために。
取り込まれた二人を助けるために。
「これで終わりよ!飛炎!抜刀!」
糸音が敵目がけて一気に飛んでいき、目にも見えぬ速さで一瞬刀を抜いた。
敵を飛び越えた後、カチャっという音と共に刀を鞘へ再び収める。
悪霊は自身が斬られた事にすら気付いていないのか、再び腕を伸ばして攻撃をしてくる。しかしその攻撃が糸音に届く事は無く、首に斬り込みが入るとそこから全身が燃え上がり頭部が地面に落ちた。
そのまま黒い霧のようになり身体が空へと消えていった。
「今度こそ終わったわね」
「あぁ〜疲れた。早く帰ろうぜ」
悪霊が滅された事により、女の子二人が解放される。
二人に駆け寄ると脈と呼吸を確認する。
「意識は無いが、命に別状は無さそうだ。室長、車をお願いします」
「分かったわ。すぐに車を向かわせる。その子達は警察病院へ運んでもらうわ。二人共帰って良いわよ。お疲れ様」
悪霊による事件で被害者が出た場合、警察病院へと運ぶようになっている。
というのも特務ゼロの名前を出すと、詳細を明かさずに治療を行ってくれるからだ。
幽霊にやられました何て普通の病院では言っても信じてもらえないからな。
数分して車がやってきた。
2人の女子高生を車に乗せる。
「やっと仕事終わったぁ。あぁ疲れた。次呼び出し掛かったとしても適当な理由でっち上げて休もうかな」
「聞こえてるわよ糸音」
インカムから室長の声が聞こえて来た。まだ繋がっていたとは不覚。
「バーカ」
インカムの電源を切ると近くに待機していた黒のセダン車がやって来た。
航が笑いながら、迎えの車の方へと向かっていった。
それを追うように私も車の方へと駆け足で向かい、呑気に歩いてる航の背中を軽く叩いた。
「いてっ!何すんだよ!」
「仕事したらお腹空いた。航、ラーメン食べ行くよ」
「え〜今からかよ」
そんな事を言いながら車に乗り込むと深夜でも開いている行きつけのラーメン屋に向かった。