2.召喚の儀式
「こっくりさんコックリさん」
そう言いながら儀式を開始した。
「おいでになられたら、はいへお進み下さい」
指で押さえた十円玉は動く事無い。
数秒程黙って自分達が抑える十円玉を見つめる。
静寂が包み込む中、最初に声を発したのは優子だった。
「ほらね。何にも起きないんじゃん」
「本当だ。良かったぁ〜」
二人は深く息を吐きながら安堵した。
実際何も無いと分かっていても、こういったものは怖いものだ。
「コックリさんも来ないみたいだし、さっさと帰ろうか」
そう思って指を離そうとすると。
少しずつ押さえている十円玉がゆっくりと動き出したのだ。
安心して温まり出した指先がまたしても冷たく冷えていく。
十円玉は少しずつ、そして確実にはいの文字の方角へと動き出した。
「ちょっと優子!動かしてるんでしょ!怖いからやめてよ!」
十円玉が動き出した事に梨花がパニックになる。
「ち、違うって私何も、、、嘘でしょ。いやいやいや無いよ。そんな事ある訳無いじゃん!」
優子の表情が恐怖へと包まれていく。
その様子から優子が嘘をついていないと分かり、さらに恐怖が増していく。
「じゃあ、これって、、、」
暗い教室の中にはさっきまでの安堵した空気は無く、恐怖と静寂が蔓延していた。
「嘘、、、本当にコックリさんが来たの!?そんな、どうしよう!ねぇ優子!?」
「か、帰って貰うしか無いよ!」
「そうよね。そうしよう」
二人の指は震えながらも、指を離さ無いように強く十円玉を押し続けた。
指が離れてしまうとそこで儀式が中断されてしまい、やってきたコックリさんを帰す事が出来なくなってしまう。
「コックリさんコックリさん。お戻り下さい」
十円玉がはいの方に向かう事は無く、いいえの方へと動き出す。
力尽くでいいえからはいへと動かそうとするもの微動だにしない。
「梨花!はいの方へと動かして!いいからはやく!」
「やってる!やってるけど動かないんだよ!」
十円玉はゆっくりと動き出すといいえの文字の上で止まる。
「もう一度よ!コックリさんコックリさん!お戻り下さい!」
「動き出した」
ゆっくりと十円玉が動き出すと、はいの方へとは向かわず。
「し、、、、、、、ね?」
「待って待って待って!どうし」
「わぁぁぁぁぁぁぁ!!」
梨花が動転して机ごと紙と十円玉を投げ飛ばした。
梨花は顔が青白くなって汗が額からダラダラと垂れており全身震えていた。
その行動に優子がパニックになる。
「なんて事するの!これじゃあ儀式を終わらせる事が出来ない!どうす、、、」
激怒する優希の言葉を遮る梨花の目線は私の目では無く別の所へ向いていた。
「ゆ、、、優子。その腕、、、誰の?」
優子の肩に青白く気味が悪い人の手のようなものがかかっている。
優子の身体の後ろに何かがいる。
「ま、待って梨花。お願い。助けて」
その恐怖から梨花は椅子から立ち上がり勢いで倒れた椅子の事なんて気にも止めず、少しずつ後ずさる。
腕が徐々に首に纏わりついて来て、ようやくその人とは思えぬ存在の顔が見えた。
肌の色が青白く黒色の長い髪をした女性。
その表情は口角が上がって薄気味悪い笑顔と異様に大きい口と赤色の瞳がその不気味さを際立たせている。さらに腕が6本も生えてきて優子の身体に纏わりつく。
そしてこの世のものとは思えぬ声で。
「私が、、、助けてあげる」
「いや、いや。やめて」
「優子、、、私が助けてあげる」
優子は教室の隅で動けずにただ目を見開いて私を見つめる梨花に助けを求めるように腕を伸ばした。
悪霊は優子の身体を持ち上げると、二本の腕を首へと回しゆっくりと締める。
「優子優子優子、、、ゆううううこぉぉぉぉぉぉ!!」
叫び声と共に優子の首が徐々に締まっていく。
目が見開いていき涙が、口からは涎が出て来る。
意識が飛びそうになったその時。持ち上げられた優子の身体は地面に落ちた。それは優子の首がへし折れたから、、、では無く優子の首を掴んでいた腕が切られていたからだ。
そしてそこに立っていたのはスーツ姿で刀を持っている女の子。
「ギリギリセーフ。航、室長いました!三階!女の子が二人いる。あぁ〜、やっぱり契約したまま儀式を途中で中断してる。そのまま儀式を続けていれば、夜が明ける頃には悪霊も帰ってくれたのに」
糸音はインカム越しに航と室長へ状況報告をした。