1.闇に響く悪霊の声
「何でこう、高校生ってのは簡単に霊と契約するのかな?その度に私達がこうしてし滅さないといけなくなるんだけど」
夜の23時に若い男女が車から降りて来た。
降りた場所はとある学校の校門の前。あたりは暗く街灯はあるのだが何故だろう。街灯の光は周囲を照らす事が出来ておらず、さらに膝下程の高さを薄く霧のようなものが漂っている。
しかし空に浮かび上がっている満月の光だけは真っ暗な周囲を僅かに照らしてくれていた。
特殊な力を持った私達にとっては、この程度の明かりがあれば、というか明かりが無くとも十分に辺りを見渡すことが出来る。
女の髪型は長い髪を髪ゴムで一つ結びをしている。服装はシンプルな白のシャツに黒のジャケット、黒のズボンといわゆるスーツだ。ネクタイはしておらず、シャツはズボンからはみ出している。本人いわくネクタイは苦しいし、シャツは出してた方が動きやすいらしい。そして腰には日本刀をぶら下げていた。
そして男の方はややくせっ毛のある黒色の短髪。同じく白いシャツに上下ともに黒色のスーツ。こっちは打って変わって黒色にストライプ柄の入ったネクタイ。手には札のような物を数枚持っていた。
「俺に言うなよ。俺なんて飯食って寝る所だったんだぞ」
「私だって風呂入って寝る所だったんだからね!私の睡眠を邪魔した罪は重いんだから!」
夜の学校というのは不気味である、何て言う人がいるが私にとってはただの見慣れた光景。
この月明かりの空も古ぼけた校舎も広々としたグランドも、、、悪霊の叫び声も。
「ヴォォォォォォォォォォォォ!!」
校舎の中からこの世の生物とは思えないような叫び声が聞こえて来た。
二人はポケットからインカムを取り出すと片耳にはめた。
「室長。今回のターゲットってどんな奴なんですか?」
すると耳にはめたインカムから声が聞こえてくる。
女性の声だ。声からして年齢は三十代前半から半ばくらい。
「コックリさんって言うのが一昔前流行ってたでしょ。あれがまた高校生の間で流行っているらしいのよ。普通はあんなのただのお遊びで霊が出現する事なんてありえないんだけど、今日は満月で霊の力がより増しているって言うのと、流行っているからこそ無駄に怨念が集まってしまって、とうとう化けて出たって感じ」
「流行りって何なのよ。ふざけんなよ。再流行何て来なくて良いのに。まぁ所詮は下級霊だから、さっさと除霊して家に帰って寝るとしますか」
そう言うと二人は片耳に付けているイヤホンに向かって喋り出す。
「警視庁特別犯罪室特務ゼロ 天本糸音、竹宮航以上二名。作戦を開始します」
二人は校舎の中へ足を踏み出して行った。
――――――――――
二十分前
「ねぇ怖いよ。やっぱりやめよう」
学校の三階ある暗い教室を蝋燭の明かりがうっすらと照らしていた。
教室の中には二人の女の子、梨花と優子が机を挟んで向かい合わせで座っている。
「大丈夫だって。最近流行ってて皆やってるんだよ。先週は綾香と智子もやったって言ってたしさ」
「でもあれって家で、しかも昼間でしょ。わざわざこんな夜中の学校でしなくても。何か出たらどうするのよ」
「梨花は怖がり過ぎなんだよ。ほら早く準備して」
そう言って優子はバックの中から平仮名と数字、鳥居が書いてある白い紙と十円玉を出した。
スマホでコックリさんのやり方を調べながら、紙と十円玉を並べて行く。
優子が十円玉に指を乗せるも、梨花は怖がって指を乗せる事が出来ないようだ。
「何をそんなにビビってるの?」
「だ、だって」
「もうそんなんだからクラスでも小馬鹿にされるんだからね。もっと心を強く持って、臆する事なく何にでも立ち向かって行かないと。私はクラスが違うんだから、守ってあげれない事も沢山あるんだからね」
そう。今回コックリさんを行うキッカケになったのは、梨花がクラス内で小馬鹿にされている事が原因だ。別に虐められているわけではないけど、人見知りで中々周囲の人と打ち解ける事が出来ない梨花が編み出したコミュニケーション方法がそういった形である。この子にとっては知らない人と普通に話す事が難しいわけでは、私なんてつまらない人間だからと、小馬鹿にされる側へ立ち回ってしまうのだ。
小馬鹿にしてくるクラスメイトも一緒にご飯を食べたり、遊びに出かけたりと仲良くはしてくれている。
ただ思った事を素直に口に出来ず相手の顔色を伺いながらヘラヘラとしてしまう。
だからこそ根性をつける必要があると、最近流行りのコックリさんをする事となった。
「良い?やるからね」
「やっぱり私帰る。何か嫌な予感がする」
梨花は自身の手足の先が冷たくなって行っているのが分かる。
夜とはいえ真夏でエアコンもついていないこの教室でこんなにも寒いのは明らかにおかしい。
優子は何も感じていないみたいだけど。
怖がる梨花を優子が説得する。優子からしたら梨花が心配なのだ。
去年までは梨花と同じクラスだったから、優子が他のクラスメイトととの間に入って仲を取り持ってくれていた事もあり、梨花は優子の妹分のようなポジションとして扱われていた。
そんな親友で妹分の梨花が一人で上手く周囲のクラスメイトと仲良くなって欲しいという想いがある。
「大丈夫だって。どうせ何にも起こらないんだから」
「わ、分かった。優子がそんなに言うならやってみる」
優子が自分の為にやってくれている事だと言うのは分かっている。そんな優子の期待に応える為にも、ここで帰る訳にはいかない。
梨花は自分の中にある恐怖心押し殺し意っを決したのか、ぐっと顔を強ばらせた。
十円玉の上に指を置き、二人はせーのの合図で。
「こっくりさんコックリさん」
そう言いながら儀式を開始した。