鮮やかな雑音
“Where is my key? -I don’t know, but someone’s key here.”
「お疲れ様です」
「ああ、うん。おつかれ」
自分の声をどこか、まだ遠くに感じている。
足音すらまともに聞こえず、世界が膜を被ったような、私が世界から切り離されているようなまま、俺は見慣れた扉に手を掛けた。
- Τραγούδα την οργή σου για αυτόν που αγάπησες,
Αυτό το καταστροφικό έλεος που έφερε αμέτρητη ευτυχία σε πολλούς,
Και η περιέργεια πολλών έστειλε τις γενναίες ψυχές τους στον Άδη-
「うん?」
通知は溢れている。いいねやファンたちの賞賛が気持ちいい。
当然、バッドなコメントもあるが、それでも俺への反応であれば受け止める覚悟はしている。
だが、そんな中に首をかしげるようなコメント通知があった。
数日前のツイートにコメントが付いている。
確か、半年ぐらい前にちょこちょこと、コメントが付いていたアカウントだったか。
空気読まないコメントでミュートにしていたはずだが、設定が外れたようだ。
「ふう」
部屋の電気も付けず、服をその辺に放り投げて、そのままシャワーを浴びる。
設定温度は42℃なのにシャワーが随分と熱く感じて、設定を下げる。身体が芯から冷えていた。
少しぬるく感じるようになったシャワーを浴びながら、右手を握って、開いてみる。
繰り返していると、どこか自分の手ではないような気がしてくる。
見慣れない手が、俺の意思で動いている。
まだ濡れているが、そのままベッドに座る。
携帯は俺の左隣で、冴え冴えとした柔らかな月明かりを跳ね返すように、人工的な力強い明かりで宙を照らしていた。
さっきの画面のまま。もう一度、見てしまう。誰かを蔑さみたくはないが、気分は良くない。
なんか最近はシステム変更でたまに設定が外れるから、こうして気分が悪くなる言葉を見ることになる。こいつはさらにファンクラブのコメントにも空気の読めないコメントを残していたから書き込みを禁止していたはず。まだコメントしていたのか。気持ちが悪い。
気に入らないなら人のことをいつまでも見るなと言いたい。
こっちはミュートにするぐらいしか回避できないのだから。
「ん?」
クリックするとすでにコメントは削除されていた。
消すぐらいなら最初から書くな。煩わしい。
この手のことは面倒だ。何も知らないくせに。何も聞かないくせに。
だったら、何も見るな。何も語るな。
イライラしたまま寝転がる。
「詩の女神」はサイドテーブルで、美しい月あかりをその身に取り入れ、いっそう神々しく、優しく俺に微笑みかけてくれた。
「きれいだ」
この美しく、控えめな俺の女神と比べるのもばかばかしい。
ようやく戻ってきてくれた女神様を右手でそっと包む。冷たい感触と温かな触感が愛おしい。
左手にある携帯が映すこの醜悪で空気が読めない不可思議なコメントしてくるアカウント。
柄にもなく、苛立った。大切なものはもう無くさない。外野の声に煩わされない。
消されたコメントは、通知された一部だけ読めた。
「「邪」とは漢字の原義から集団内で思い違うこと。「邪心」は自分の欲望に負けて誰かを害してしまう。「邪念」は」
Time passes, and little by little everything that we have spoken in falsehood becomes true.