花が舞う 音が散る 掻き消える ひかり
In Covent Garden
不思議と飛び込んできたんです。
はじめに耳が奪われました。次に目が奪われて、最後に心が奪われました。
僕は立ち止まって、その音を探しました。
異国製でしょうか。今ではあまり見かけない形の箱から、彼女が聞こえました。
どこかで聞いたような、だけど聞いたことがなく
この花あふれる異国の景色の中で、それはとてもはっきりと聞こえました。
どこか懐かしいポピュラリティと、ノイズのようなニューエイジミュージックみたいな旋律と、この世界に生まれ落ちたときの初めの声のように、どこか寂しげで陰りのあるよく通る美しい声は、僕の心のどこかに居場所をそっと作っていました
なくした時計が、そっと机の中で季節を語ってくれていたのです。
あの日、僕の全てをさらってしまった音楽は
今では遠くなるほど街角に染みて、遠ざかる人たちに沁み込んでいきました。
あのとき、ベルトコンベアのように次が用意されたステージで、僕は少しだけ君とすれ違いました。
僕はそのまま瞳を瞑っていたかった。
どこかで扉が開いて目が眩んでしまう。
誰かの声ですぐに違う空を見上げていた、あの日。
しなやかに今にも羽ばたきそうな花売りの少女の歌が流れていた時間を思い出します。
-紐を解かれた パズルはこぼれて 白い空にそっと 届けられた-
それは彼女の形代だった。そうとしか思えなかった。
モニターに映るこの彼女を見た時、俺の心はあの日に戻った。
何度もこけたし、つんのめってたけど。それでもまだ、踏ん張っていた時期に、異国の街角で聞いた彼女の声に絡め捕られ、心の隅に巣を作ってしまった日に。
いつか、そこに彼女が来てくれることを、そっと願ってた。
そんな忘れていたことを思い出して。
気がついたら、さ。
彼女のかけらは俺の掌で少し、あたたかくなっていた。