ねがいは 肌を滑り 月夜に したたる
-月夜の曇りガラス 君の名前 なぞっていく 窓の外 ひかりの泡 淡く注ぎ-
なんというか、さ。
んー、気が付いたら、そうなっていたというか。
本気でさ、全然考えていなかったんだよ。
いや、まいった、というのか。
それすらもわからないんだよ、ね。
たださ、その言葉がピッタリだったんだ。
「そっと抱きしめていたいだけ」
In Tokyo
あの日、偶然に見つけたのは「詩の女神」。
見つけたときは、もう震えた。ずっと、見つからなかった心のかけらがようやく、俺のもとに戻ってきてくれた。それしか、思い浮かばなかった。
その日は、さ。どっか気怠い木曜日。いつものように朝というにはちょっと遅い時間に微かな頭痛で目が覚めた。いつものように携帯を開く。
もう癖になってんだな。少し人より大きな親指でカバーを弾けば、あっちこちから連絡がいろいろと入っていた。黄色いマグカップに温めたたっぷりのカフェオレを入れながら、ぱらぱらとそれに返事していく。ちょっと笑っちまうとか、こっそりいたずら仕掛けてやろうか、なんて。そんな感じで。
ベッドから立ち上がり、閉め切っていたカーテンを少し開けて、明かりを取り込む。今日は薄曇り。特に時間まですることもない。ギターやピアノに触る気分でもなく、本を手に取ってみたが、やめた。
机のアップルに電源を入れて、お決まりのネットサーフィン。外へ出ると何かと騒がしいし、面倒ごとが付いて回る。ウインドウショッピングなんて出来もしない。
むかしはそれが不自由であり、誇りだと思っていた。成功した自分に酔っぱらっていたのかもな。
それは、はき違えた靴にわずかな躓きでなくなった。残ったのは、本当に大切な仲間とファン。そして笑い飛ばせない、胸の痛み。気が付くとどこかに捕らわれてしまう。
ひとりの時間は気楽だが、恐ろしくもある。何かをしていないと、動けなくなる。
うっすらと差し込む光のリボンに誘われて、ゆっくり、カフェオレと机にあったバニラ味のアイコスをくゆらせて、画面を追っていた。
そして、俺は彼女に出会った。