お茶会(3)
バロンドール公爵夫人とは、生前同様に事はトントン拍子に進み、お茶会も解散になる頃にはすっかり仲良くなった。
そろそろお開き、そんなムードが漂い始めた頃、エルザス伯のご令嬢エミリアはそっと手を挙げた。
「皇太子妃殿下、そしてこの国で最も高貴なみなさま、少しよろしいですか?」
本来目下のものから話しかけるべきでは無いが、これは私主催のお茶会で、公的行事でもない上に、エミリア嬢は小刻みに震えている。
確実になにかおかしなことがあったのだろう。
「発言を許可します、エルザス伯令嬢」
そう言うとエミリアは少しほっとした様子で今度はしっかりこちらを見ながら口を開いた。
「皆様、カンタベル伯爵家は御存知ですか?最近男爵家から伯爵家に陞爵された家門です。」
カンタベル……!まさかこのお茶会でプリメラの実家についての情報が出てくるなんて思ってもみなかった。
エミリアは一通りこちらの反応を窺ってから続ける。
「そのカンタベル伯爵令嬢、プリメラ様というのですが、……彼女はあることを吹聴して回っています。ありえない事ですが、噂好きで反王政派の下級貴族の中ではとりわけ信じられているようです。私どもの家門エルザス伯爵家は、此度の事態をとても重く見ています。皇室と皇太子妃殿下が軽んじられている内容なのです。事によっては、わたくしどもはエルザス伯としてではなく、選帝侯として動くこともできます。しかしそれは、こちらにおわす貴婦人方の意見を聞かねばならぬと、そう思っております。」
エルザス伯爵家。彼らは帝国の西部を領地として賜る家門であると同時に、皇室がとだえた時に新たな王を選出する選帝侯。諸侯の中でも、普通の伯爵家とは比べ物にならない権威と発言力、そして軍事力も有する騎士の家系。
彼女が伯爵家ではなく、その選帝侯としての地位を用いることを考えるほどの皇室への悪評。
そんなもの生前は聞いたことがなかった。けれどあるのなら対処する他はない。
「内容は」
「……プリメラ・カンタベル。彼女は将来ロイヤル・ミストレスになるだけでなく、必ずや皇后になってみせる、そう豪語し、また皇太子殿下との閨の想像もそれはそれは生々しいことを口にし、まるで既に関係があるかのように匂わせているのです」