お茶会(1)
……あのまま爆睡して、マーサに起こされて今はお昼。夫であるガゼルは本当に何もしないで寝て、今は元気に政務に励んでいるらしい。それは結構。いい事だと思います。わたくしはと言えば、まず皇太子妃になって初めのお茶会を開かねばならない。そのためにはまず呼ぶ人を決めて、会場を押さえて、招待し、人員を用意して……ああ、考えるだけでも頭が痛くなる。皇室からの招待を断れるだけの力ある貴族は今は居ないから、呼ぶ人を決めた段階で会場を押さえて問題は無い。マーサに言いつけて予め大凡の人選はしてあって、わたくしはその中から選ぶだけなので、まだ簡単だ。
初めのお茶会は特に上流階級の貴婦人だけで良いし、それならプリメラは多分来ないだろう。プリメラがリストにいても弾けばいい。
「妃殿下、リストをお持ちしました」
「ありがとうマーサ。確認するわ」
バロンドール公爵夫人アリス、エリステラ公爵夫人エレナ、それからエルメローズ侯爵夫人メアリー。生前交流が深かったのはこの3人。クーデターを起こす予定なら味方は多い方がいいから、呼ぶのを辺境伯までに引き上げさせた。侯爵までしか呼ばないと、あと2人程度しか増えない。プリメラは結婚後ならカンツィーネ伯爵夫人のはずで、ならここに名前は無いはずだけれど、確認するに越したことはない。
「それから妃殿下、こちらは執事のアーサー様から辺境伯に身分は満たないが有望である者とピックアップされたものです」
「あら、それも目を通します。置いておきなさい」
「はい」
有望、ねえ。エルザス伯爵令嬢エミリアは確かに有望だ、呼んでも問題は起こさないだろう。
文字を目で追っていくと、やはりそこにプリメラはいた。まだ未婚のようで、カンタベル伯爵令嬢プリメラとして。
「ねえ、アーサー執事を呼んできて」
「?畏まりました」
プリメラには悪いけど、彼女は有望ではなかったはずだ。学院の成績も中の下と聞いたし、容姿も優れてはいない。彼女が有望であるとするならそれは人心掌握術、それも男性に限るもので、彼女はいつだって女性に疎まれてきたはずだ。
「アーサーでございます、妃殿下」
「入りなさい。……アーサー、この有望である者の基準を言いなさい」
「……?学力に秀でた者、知識の豊富な者、容姿の優れた者、会話の上手な者、それぞれでございます」
「ではカンタベル伯爵令嬢は何に優れているのかしら」
「……知識が豊富とカンタベル伯はよく仰っています」
「身内の贔屓目では無いかしら。学院の成績は中の下のようだけど」
「……会話も上手いと聞いておりますし、実際話してみても心地の良い方でした」
てっきりアーサーがプリメラを手引きしたと思っていたけれど、その線は薄そうだった。単に懐柔されただけらしい。
「カンタベル伯爵令嬢を除いてほかは招待します。」
「!カンタベル伯爵令嬢は何故です?」
「単純に、彼女は殿方に対してだけお話が上手なようなので。そのような方は私のお茶会に必要ありません。もうアーサーは下がって頂いて構いませんよ」
「……失礼します」
アーサーもまだ若いものね。今年で28と聞いたわ。皇太子妃付きの執事がその篭絡のされやすさはどうなのと言いたくもなるけれど、今は新しく首をすげ替えている時間はない。とりあえずプリメラの現在の所属がカンタベル伯とわかっただけで僥倖としましょう。
「マーサ、お茶を淹れてちょうだい」
「はい妃殿下」