結婚式
マーサの手入れしてくれた髪を高く結って、私は今教会で純白のドレスを身にまとっている。生前はこの結婚を本当に嬉しく思ったものだ。ガゼルと言えば隣国の端正な顔立ちの貴公子と名高かったし、事実顔は整っていたのだから。
でも二度目の、それもわたくしを殺した相手との再度の結婚式に浮き足立つほど私はもう純粋じゃない。
「汝、オフィーリア・ド・トリアノンは、夫ガゼル・オブ・マンチェストを愛し、いついかなる時も共にあると誓いますか?」
「誓います」
神父の形式的な問いに、決められた答えを返す。ベールはゆっくりと持ち上げられ、憎い男の顔が目の前に現れる。
……ああ、殺してやりたい。
そんな気持ちをひた隠してただただ笑っていると、ガゼルと唇が触れるだけのキスをして離れた。
「未来の皇帝陛下・皇后殿下に万歳!」
バルコニーへ出て、下に集まる民衆へ手を振る。ガゼルは1度目の時と同じように、無愛想な顔で手を振っている。良かった、変わっていなくて。わたくしは1度この彼の姿を見て胸を高鳴らせたこともあったけれど、今はそんな気持ちはない。ただこの男に復讐する。その為にここへ来た。それが変わらずにあることに安堵した。
◇
問題は初夜だ。1度目では子を成せず、それが結果的にプリメラの付け入る隙になってしまった。そこでわたくしは復讐の方法として子供の利用というのを思いついた。歴史の中ではさして珍しいことではないが、ガゼルの息子を産み、幼いうちにクーデターを起こすかガゼルを暗殺し息子を帝位に就ける。そうした後に、貴族の中からプリメラという女を探し出して殺せばいい。このために産まれるガゼルとの息子には申し訳ないが、これがもっとも賢いやり方だ。後継者がいれば国は空位期間を作らずに済む。ガゼルには幸い兄弟姉妹はおろか、従兄弟や再従兄弟の類もいなかった。つまり子を成すことが出来れば問題は無い。
そこで初めに立返る。初夜である。
わたくしは未来でガゼルと幾度も閨を共にしているので、身体的にはともかく精神的には全く処女では無い。だが帝国に嫁いできた王国の姫の初夜の反応が慣れきったものだったら……大問題だ、間違いなく。その為わたしくしは演じなければならない。純潔の乙女を、穢れを知らない愚かな女を。
「皇太子殿下がお出でです」
執事の声がすると同時に、扉はゆっくりと開かれる。返事も待てないなんて。
「……よく、いらっしゃいました。」
「…………」
「……わたくし、はじめてですの。殿下が、教えてくださいませ?」
「…………」
………………………………なんで一言も話さないわけ?こっちは恥を忍んで甘えたを演じているのに、ガゼルは口を開きもしない。なんてこと!ここまでバカにされるなんて思わなかった。
「殿下?」
「ああ…………いや、今日はもう寝る。君も疲れているだろうから、それが良いだろう」
「…………そうですわね。」
…………そうですわね、じゃないわよ!
どういうつもり?帝国の皇太子ともあろう者が、初夜もしないって言うの?
1度目ではそんなこと無かったのに。
わたくしの計画が一度にだめにされてしまったじゃない。疲れてる?当たり前でしょう!ふざけてるの?皇太子妃になったらこれからもっと疲れる毎日が続くわ、その度にこうやって寝るの?
……とはいえ、ここで食い下がって淫乱女の烙印でも押されたらたまったものではない。小さくため息をついて、私はガゼルの寝る布団へ潜り込んだ。




