廃后オフィーリア
「オフィーリア・ド・トリアノン皇后をただいまを以て廃后し───」
「側妃・プリメラ・カンツィーネの殺人未遂容疑で処刑する」
夫である陛下の声が低く低く響く。
断頭台の目の前まで乱暴な手つきで連れてこられ、雑に手首をまとめあげられた。
ちらとプリメラの方を見ると、娼婦のような微笑みでこちらを見下している。
ああ、こんなことなら、私はあの子を侍女になんてしなかったのに。
処刑人の男が最後に何か言うことは無いかと聞いてきた。
「そうね……」
今更何を弁明しようと、泣き叫ぼうと何もかも無駄ならばと口を開く。
「わたくしなら、もっとうまく殺しますけれど、ね」
鈍く光る刃が落ちてきて、そこで私の意識は途切れた。
「オフィーリアさま、オフィーリアさま!朝でございますよ、起きてくださいませ」
聞きなれた侍女の声に違和感を覚えてゆっくりと目を開ける。首と共に体から離れたはずの視界は鮮明に朝の景色を映している。
「朝……?」
「朝……?ではございません!今日は隣国のガゼル皇太子殿下との結婚式でございましょう?支度を致しますから、早く起きてくださいませ!」
声の主を見上げると、わたくしの処刑の2年前には持病の悪化で死んでいたはずの侍女、マーサがそこに居た。
「マーサ……?」
「はい!マーサでございますよ!おかしな姫さま!」
そこでハッとする。マーサが生きているし、今日がガゼルとの結婚式なら。
今はわたくしの処刑より10年遡っているということで、わたくしは16歳だ。
夢か現か、誰の仕業かは知らない。
けれどこれはいい機会だ。わたくしの言うことを信じなかった、愚かなガゼル。侍女でありながらガゼルの寝室に忍び込んだ、恥知らずなプリメラ。
あのふたりに報復する。
これはわたくしの戦い。貶められたわたくしの報復。
「ふふ、ごめんなさい。じゃあ支度を手伝って頂戴」
ガゼルもプリメラも、私を貶めた全てを殺し尽くすまで、私は復讐をする。
たった今、そう決めたの。