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エピローグ:同僚が恋人を溺愛している件について

ヘクター視点です。

 多忙な騎士務めの中で、眠る前の趣味の時間は貴重だ。オレとアルフレッドは安い葡萄酒を舐めながら、好きな作業をして、時折思い出したように取り留めもない話をするのが日課だった。


「ヘクター」

「あん?」

「相談したいことがある」

「へーへー、どうぞ」


 籠手の紐を締め直しながら返事をすれば、向かいで本のページをめくる音がした。


「ロゼッタさんが甘えてくれない」


 最近のこいつの話題はといえば、新しい恋人のことばかり。

 渋々ながら手を止めると、合わせてあちらも顔を上げる。


「もっとイチャイチャしたい」

「大真面目な顔で何を言ってんだおまえは」


 どうしてこの男に好意を抱く者が多いのか、友人としては理解に苦しむ。

 おおかた、ミステリアスだとか沈着で大人っぽいだとかそんなところだろうが、何のことはない、実際ただの口下手だ。おまけに恋愛経験も乏しいときている。


 それが露呈する前に、相手が見つかって良かったのかもしれない。

 あの少女は接客業だというし、まあ会話は下手ではないだろう。少なくともこいつよりは。


「ま、焦ることはねえよ」


 アルを見上げる少女の横顔を思い出し、からかいたくなるのをどうにか堪える。恋する相手を前に緊張してしまうことくらい、冷静になればすぐにわかるだろうに。


「いちおう訊くが、もうキスくらいしたよな?」

「した」

「ほう」

「頬に」

「ん?」

「一度だけ」

「そんなの挨拶みたいなもんだろうが。出直せ」


 にべもなく言い放ってやると、眉間にほんの少しだけ皺が寄った。


「ロゼッタさんは可愛いから」

「あ?」

「たぶん、止まれなくなる」

「……冗談に聞こえねえな」

「冗談じゃないからね」


 前々から変わったやつだとは思っていたが、まさか好きな相手のために土地をまるごと買って、城まで建てようとするとは。話を聞いた時には、さすがのオレも笑えなかった。

 ちなみに、当のロゼッタさんには全力で遠慮されたという。それはそうだ、怖すぎる。行動力があればいいというものじゃないだろう。天然に金と力を与えるとロクなことにならない。


「そもそもな、もっとほどよく距離を詰めていくべきなんだよ。ロゼッタさんの店に通ってたのだって、一歩間違えば犯罪だからな?」

「ギリギリなら大丈夫かなって」

「その考えがアウトだろ」

「だって、常連になれって、君が」

「まさか不動産屋だとは思わねえよ!」


 仕事ではヘマをしないくせに、どうにも妙なところでアホなのだ。彼女も苦労するだろう。いっそ、ずっと騎士の格好をさせておいた方が世のためかもしれない。

 まあ先日は仕事でも珍しく規定違反をして、減給処分を食らっていたが。町で捕らえたゴロツキだかなんだかを、聴取中に素手でブン殴ったらしい。哀れ、こいつの馬鹿力では、顔の形が少し変わってしまったかもしれない。


「……」

「……」

「ジョン君は、元気?」

「おう。こないだも、新しいズボンをヨダレと泥で台無しにされたばっかりだ」

「ふふ、いいね」

「よかねえよ」


 気を許してくれているということなら、オレも別に悪い気はしないが。


「はあ……早くロゼッタさんに会いたい。世界一可愛い」

「はいはい」


 グラスをぐいと傾け、また作業に戻る。目の前で呻いている男は放っておくとしよう。当分、この部屋を一人で使うことはなさそうだな。

これにて本編完結となります。

ここまで読んでくださった皆様に心からの感謝を! 本当にありがとうございました!

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