Once upon a time.
Once upon a time.
「ねえ、紙が無くなったら……この世界ってどうなるかな?」
「紙、か……。日本じゃ、他と違って、まだまだ紙幣が主流だし、全部仮装通貨とか“○○Pay”に給料も変わると思う」
「へえ、お金に目をつけたんだ。最初の頃とは大違いだね。最初は、すぐに諦めて私の話を聞いてたのに」
無機質で真っ白なベッドに壁、床。ここは病室だ。そして、俺は微妙に座り心地の悪いガタついた椅子に座っている。
ベッドに座っているのが俺の幼馴染、千聖だ。冬になれば風邪とインフルは絶対にかかる。流行りも病気もかかる。
それくらい体が弱くて、いつも俺が病院に通って勉強を教えていた。
そんで、いつの間にか俺よりも賢くなっていた。俺のおかげというよりも、彼女の読んでいる本のおかげだろう。
暇つぶしと称して、いつも本を読んでいた。そして、その日の勉強が終われば絶対に質問を俺にした。
そして、その質問は共通して「○○がない世界になったらどうなるか?」だった。
俺は活字嫌いで、ガキの頃から国語の教科書に載ってるのを読んでれば、満足してた。大人になったら、そんな教訓忘れてるし。
――でも、ある日俺が真面目に答えるようになったきっかけが訪れた。
それは、千聖の余命宣告。医者には「長くて一年だろう」と言われたらしい。医者が余命宣告をするために、前もって少し短めの期間を言い渡すらしい。
人間の病は気から、とよく言ったものだ。もし余命三ヶ月だとして、それ以上生きれたら本人も家族も喜ぶだろう、という配慮らしい。
普通に生きている人であれば「一年もあるのか」と思うかもしれない。でも、一年後きっかりに死んだとしても、千聖にはもう一年しかない。
それを受け入れているようで、今でも普通に生活している。
だから、俺も普通にしていようって思った。
そして、彼女から投げかけられた質問には、しっかり答えようって思っていたんだ。今までは、絶対に「退院の日」という目処が立っていた。その場では、適当に流して「いつかまた考えて言おう」と考えていた。今はそうはいかないんだ。
だから、少しでも彼女に対して、俺の考えを言っておきたい。
自分で話しかけるようなタチじゃないから、話しかけてくれる「質問」が俺にとっては一番大切な時間なんだ。
「ねえ、知ってる? “Boys be ambitious”っていうクラーク博士の、名言。あれってね『少年よ、大志を抱け』というよりも『少年よ、野心を抱け』の方がニュアンス近いんだって。あんなに優しそうなのに、少年漫画の長老みたいなこと言うんだね」
そう言いながら、俺の母さんが作った焼きリンゴをパクッと食べる。
「ねえ、お前って何か嫌いな食べ物ってあんの?」
「……おかゆとうどんと……あとフルーツ」
「でも、リンゴ食ってる……」
「このリンゴは別に……焼きリンゴだから、砂糖が入ってて甘いし。でも、おかゆとかうどんは体調崩したらよく食べてたから、嫌いなんだ。味が嫌いというか、食べたくない」
「ふうん、そうなんだ」
「でも、小学校の給食は好き。給食だって、栄養バランスを考えて作られているから、みんなは『味が薄い』って言っていたけど、病院食よりはずっとましだもん。おかゆは出ないし、うどんもバリエーションあるし」
「そういうもんなんだ。大変だな」
「うん」
「じゃ、俺はもう帰るな」
「じゃあね」
家に帰ると、母さんが何か作っていた。ああ、この匂いはシチューだな。お母さん、本当に好きなんだよな、シチュー。
手を洗って、いつも通り暮らした。
そして、その二か月後のある日病院から電話がかかってきた。
「あ、もしもし」
千聖の声だ。ものすごく低い声。何か悪いことでもあったのだろうか。
「ど、どうしたんだ?」
「あのね、ずっと隠してたんだど……」
そう言って、深呼吸の音が聞こえた。
「ずっと隠してたんだけど! 明後日、退院するんだ!」
「…………ほんとか⁉ よかったな!」
「うん! ほんとは一週間くらい前に言われてたんだけど、今日の夜までずっと隠してたんだ」
「どうして?」
「だって、今日はエイプリルフール! エイプリルフールの午前中に着く嘘は、午後になって嘘だって言うの知ってるでしょ?」
「ああ」
「だよね。そういう世界の文化の話好きだから、きっと知ってるんだろうなあと思って。だから、朝のうちに電話して言っても、私が慰めで言ってるだけに思うかもしれないから、夜になるまでずっと待ってたんだ」
「そうだったんだ。まあ、とりまおめでと」
「うん、じゃあね!」
明後日、学校に復帰してきた千聖は、病院にいるよりも生き生きとしていた。
「ああ、おかえりー!」
「うん! ただいま!」
その後、俺が転校することになったが、大学を卒業してから奇跡的に再会できて、結婚した。千聖が大きな病気にかかることは無く、見事作家としてデビューした彼女は大きな注目を浴び、俺は千聖の作品の表紙のイラストを担当して、夫婦で作品を作り続けている。
最後まで読んでくださりありがとうございます。




