03 選択
いそいそと、お返事の準備を。
この世界、魔導具を使った通信技術などは、まだまだ一般には普及しておらず、
通信手段としてポピュラーなのは、
速達鳥という鳥さんを使った手紙のやりとり。
さらりと一筆、などと勇んで手紙を書こうとしてみたが、ぴたりと止まった手。
つまり、俺、筆不精。
っていうか、あっちの世界でも、結婚式どころか式と呼べる集まりへの出席経験、超貧弱。
ぼっちだった頃の事を思い出して、へこみかけるが、
セシエラさんの魅惑のお姿が脳裏で手招きしてくるのです。
頑張れ、俺。
普段の冒険者活動でも骨身に染みているだろ、
苦労は必ず報われるのさ。
それから、俺的には最近稀なほどの、脳細胞フル稼働。
セシエラさんに会える機会、あわよくばハグってもらえるこの好機に、俺、必死の全力思考。
この家の中で、この手のお手紙に詳しいのは、誰か。
第一候補のメリルさんは、今は無理。
さっきのアレもあって、流石に気まずい。
ニエルは、論外。
だってニエルだし。
リリシア・マユリは、危険。
対『モンスター』センサーの優秀さは言うに及ばず、なにせ常に討伐意欲満々なあのふたり。
危ない橋を渡りそこねて、セシエラさん謁見の機会を逃してはならぬ。
ハルミスタは、どうかな。
知性と真面目さでは申し分なし、
なのですが、何と言いますか、信頼感の面においてやや不安が。
つまり、うっかりさんと言いますか、ドジっ娘と言いますか、
平たく言うと天然さん、なのですね。
あんなに大人な女性なのにそういうところが魅力なのですが。
それはさておき。
残るは、ユイ、ですね。
元お姫さまなので、お作法やマナーは満点。
先ほど出席・欠席に◯などと言いましたが、
もちろん今回のお返事のお手紙は、そんな簡単な定型文ハガキなんかじゃないのです。
めっちゃ長ったらしくて、めっちゃ分かりづらい文章を、
先方に失礼の無いよう、書き上げなければならんのですよ。
うん、ユイ、キミに決めた!
ってなわけで、我が家のお姫さまのところへ。