11 マリエレン
ギルドにて、速達鳥での配達を依頼。
いいなあ、鳥さんは、自由で。
いや、速達鳥もお仕事しているのは重々承知ですよ。
でもほら、なんかそんな気分の日も、あるよね。
ギルドの掲示板には、特に目ぼしい依頼は無し。
買い物のお使いとかも頼まれてなかったので、
やる事も無く、とぼとぼと幌馬車に搭乗。
まだ10時前、
お昼、何にしようかな。
それに、約束の三時までの時間つぶし、どうしよう。
「こんにちは、アランさん」
こんにちは、マリエレンさん。
今日もお綺麗ですね。
彼女は雑貨屋のマリエレンさん。
夫を戦争で亡くされた未亡人。
旦那さんは、国境の街ジオーネへの仕入れの旅路で戦火に巻き込まれたんだよな。
和平がもっと早かったら……
「今日はおひとりですか」
はい、おひとりさまなのです。
寂しいひとり旅の傷心者を慰めてください。
「まあ、奥さまたちに叱られますよ」
つまり、今、マリエレンさんから慰めてもらえると、妻たちからのお仕置きがもれなく付いてくるというお得なボーナスイベント。
ぜひ、お願いします。
「本当にお上手ですのね」
「こんな素敵な旦那様では、奥さまたちも気が休まりませんね」
いや、日常的に気が休まらない率の高さは、自慢じゃないけど、俺が我が家で一番ですって。
家庭内ヒエラルキーでは最底辺ですので。
「確かに、あんなに素敵な奥さまたちなら、旦那さまも心配で気が休まりませんって、おのろけはほどほどに、ですよ」
参りました、降参です。
「どういたしまして、じゃなくて、ごちそうさま、ですね」
何だろう、この圧倒的な安らぎ感。
マリエレンさんは、タイプとしてはミスキさんに近いのだけど、
何と言いますか、フェロモンマシマシオーバーブースト満開ってな感じなのです。
多分これが、人妻界でも特異な存在『未亡人』の力。
『新妻』『幼な妻』『団地妻』『未亡人』は、言わずと知れた人妻四天王として有名。
もちろんこの異世界では『団地妻』には遭遇不可なので、
実質、三強による仁義なき闘い。
いや待てよ、
もし『幼な妻』が『新妻』してからの『未亡人』になっちゃったりしたら、
手がつけられないほどの『はぐれ妻』に進化確定!
いやいや、もちろん手をつけちゃダメって、分かってますとも。
『イエス人妻、ノータッチ』
確かに俺は『モンスター』だが、守るべき矜持は、誰よりも持っているのさ。
「どうかなさって?」
うぉっとマリエレンさん、そんなに近付いて覗き込んじゃ駄目ですって。
俺には妻が四人と年上のメイドと、お腹を空かせたちっちゃなメイドが一匹、
「もう、変なアランさん」
確かに今の俺、限界突破レベルで、変。




