11月23日 旅行
薄暗い部屋に入ってきたのは、葵だった。基本、私は部屋にいることが多いから、みんなと話すこともあまりない。みんな部屋の外に出ていけば話をしてくれるけど。
私 「今日は勉強してきたの?」
葵 「うん。お姉ちゃんは、調子どう?」
私 「まぁまぁかな」
今日は、21時になって初めて人と話をした。いつもドアの近くでお母さんは話かけてくれるが、部屋の中に入って話すことはまぁない。そんな中、葵は少しずつ部屋に入って来るようになった。
葵 「バイトの面談決まったの?」
私 「いや、まだ。返信来てないのよ」
ベットの近くにあったペットボトルの水を口に入れる。スッーと喉が潤っていくのがわかる。葵は、カーペットの上に座り何かを考えているようだった。
葵 「バイト楽しみだね」
私 「うーん。どうかなぁ」
楽しみというよりも怖さが勝つ。今までも、何か新しいことをしようと思ったけど、なかなか踏み出せないでいた。やろうと思えば思うほど、足が止まってしまう。これがやっぱり、現実なのだろう。
葵 「そんな楽しみじゃないの?」
私 「バイトはそんな楽なものじゃないよ」
葵 「そうなの?」
私 「うん」
葵は、純粋だから何でも信じちゃうのが悪いところ。これから、変な男に騙されないかとても心配だった。もし、何かあったらと思うと姉としてやっていけない気がした。
葵 「そっかぁ」
私 「もっと簡単なものだと思った?」
葵 「うん」
私 「見てると簡単そうに思えるよね」
ゆっくり頷く葵を見ると、健気で可愛かった。私の周りで妹がいる人はほとんどいない。真波と実咲は一人っ子だし、優衣は弟。陽菜乃は、姉。意外とわからないもんだよな。
葵 「お姉ちゃんは、バイト意外にしたいことないの?」
私 「うーん。やっぱり、遠出かな」
座っていたはずの葵が立ち上がった。自然と私の視線も上に上がる。
葵 「あぁ、遠出ね。どこ行きたい?」
私 「沖縄とか北海道かな」
葵 「それいいね」
珍しく葵がのってきた。なんか、見上げる葵は、大きく感じた。
私 「でしょ?」
葵 「私が卒業したら行こうよ」
葵 「じゃあ、お母さんにお金出してもらお」
私 「出してくれるかな?」
まぁ、言ったら出してくれるかぁ。満面の笑みで私の方を見てくる葵のために何かしてあげたくなっていた。




