野球部、始動
4月9日。スピーチから一夜明けた。慎太郎の知名度は、入学式の代表挨拶をした駿希に次ぐものとなった。が、彼の顔面偏差値は自称36。モテるなどということは断じて無かった。しかしながらスピーチの効果は絶大だった。
「君が慎太郎殿か!?」
「そ、そうっす。」
「我が名は森本炎騎と申す!昨日のスピーチ、感じ入りました!私も是非入部させてくだされ!」
「えっ!?」
炎騎は184cmの大柄さからも分かる通り、バレー部の有望株。初岡村の隣町である南大倉市の伊納中時代にはキャプテンとして全国出場に大きく貢献していた。慎太郎も分かるような名選手の突然の入部宣言に、さすがの慎太郎も度肝を抜かれた。
「君はバレー部に入るんじゃ?」
「ずっとそのつもりでしたが、昨日の君のスピーチで私の考えがガラッと変わり申した!私は常に必要としてくれる人のもとで活躍したいのです!確かにバレー部でも重宝されそうでしたが、君の他人を必要とする熱量に感服致しました!是非!」
「お、おう…炎騎君、いや炎騎!よろしく!俺のことはシンと呼んでくれ!」
「押忍!シン殿!」
「いやシンだけでええって笑」
キャラには戸惑ったがこれほどのスポーツマンを獲得できた。慎太郎の野球部創部計画はその後も順調に進んだ。
「あれ!?まっさじゃん!」
「シンか!聞いたことある人スピーチしとるなと思ったら、やっぱシンだったのか!」
永城雅斗。西大倉市の下町中で県準優勝を成し遂げ、西大倉市選抜のエースも務めた名左腕だった。慎太郎とは、中学2年時の岩手県南地区リーダー研修会からの仲だった。
「てっきり光輝学園勒聖とかに推薦で行ったのかと思ったわ笑」
「いや、やっぱ学業優先しないとと思ってね、ここに来たんだけど…シンの熱意感じてさ、また野球したくなったわ笑」
「おお!マジか!」
「俺なんかで良ければ是非力になりたいな笑」
「それはもう万々歳よ!!ありがてぇ!」
雅斗は中学通算12本塁打を放つ強打者でもあった。
「大沼君の人脈はやはり凄まじいですね、教頭。」
「はい校長!やはり生徒会長という役に立っていましたので、人の心を掴むのが上手いです。」
村田校長と佐藤教頭は慎太郎の勧誘する姿を見て胸を撫で下ろした。
4月15日。仮入部の日。慎太郎と駿希は緊張した面持ちで、野球部の集会場所・視聴覚室へ向かった。
「何人来るかな。」
「せめて10人は欲しいよね、チームを組む上で補欠1人までは絶対条件だから。」
期待と不安の中、慎太郎は視聴覚室のドアを開けた。
「うぉぉぉ!結構いるぞ!」
「やったぞシン!お前の努力のおかげだ!」
そこには合計12人の男子と2人の女子がいた。
「…しゅ、しゅうだ!!」
2人の親友、秋田修の姿もあった。
「よく来たなしゅう!」
「シンの熱意に心が動いたから来たよ笑」
「ありがとう!!」
「一緒に頑張ろう!」
「おう!」
慎太郎は喜びに浸っていた。その時ドアが開いた。村田校長と佐藤教頭だった。
「えー、みなさんこんにちは。校長の村田源一郎です。」
「教頭の佐藤浩正です。」
「まずは、大沼君。私の無理な頼みにも関わらず、これほど多くの人を集めてくれてありがとう。本当に感謝しています。」
「いえいえ、僕の出来ることをしたまでです。」
「そして、集まったみなさん、ありがとう。私の念願だった野球部創部。君たちのおかげで叶いました。この感謝を込めて、私は野球部の経営に責任を持って取り組みますので、要望をどんどん言ってください。今日はみなさんに見合った、非常に優れたコーチを紹介します。こちらへどうぞ!」
コーチが入るなり、室内はざわついた。
「ええっ!うそだ!!」
「はじめまして。水上陶樹と言います。優しく丁寧に教えますのでご安心を。よろしくお願いします。」
水上陶樹コーチはつい昨年まで、プロ野球楽天の選手として活躍していた。育成入団ながらすぐに支配下登録され、4年間で238試合を投げ抜いた鋼鉄の左腕。全盛期にも関わらず謎の引退をしていたが、
「引退の理由がこれです。昨年12月に、親交があった村田校長から話をもらいました。選手としてはもう満足したので、今度は将来性のある選手の指導に当たりたいと思い来ました。」
と、前向きな姿勢だった。
「一緒に強くなりましょう!」
「はいっ!」
全員が元気良く返事をした。
集まったのは慎太郎と駿希含め14名の部員と、2人のマネージャーだ。メンバーは慎太郎、駿希、炎騎、修、雅斗に加え、駿希に次ぐ天才・三瓶満吾郎、山育ちのパワフルマン・田端生剛、元ヤンキー・外場克則、超重量級・大前超磨、新体操経験者・高橋翔光、奇抜な髪型の伊達宗馬、アフロのボケ担当・南郷孝之助、学年No. 1チャラ男・茶畑祐、学年No. 1オタク・小竹兼那というメンバーだ。マネージャーは、スポーツ好きの陽キャ・山下毬乃と、大人しめな文系女子・鈴木彩香だ。
「よし、みんな!これから一緒に甲子園目指すぞ!」
「おう!!」
14+2人の、青春を懸けた野球生活が今、始まった。
(第3話 終)