新たな太陽が昇る
吹き荒れる風の中、必死に飛ぶフースケとウィンディア。
強風に抗う二人へハヤテの声が届く。
「風に逆らってはならん。風に乗るのだ! 身軽なお前たちならきっとできる!」
二人は返事をする余裕もなく、ただ指示に従った。
風の流れに身を任せ、あるがままに運ばれてゆく。
やがて、二人は修道院の入口へと辿り着いた。
先に着いていたハヤテが頼もしく笑う。
「二人とも無事なようだな」
「うん! タカ兄も無事でよかった! ……あれ? タカ兄、剣はどうしたの?」
「どうやら重すぎたようでな……。落としてしまったよ」
「ええ!? これから戦うのに、大丈夫なの!?」
「どうにかするより他にあるまい。それに、敵は待ってくれないようだ……」
そう言って振り向いた先から、サンセットの兵たちが押し寄せてきた。
皆、手に槍を持ち口々に叫ぶ。
「侵入者だ! 捕らえろ!」
「生きて返すな!」
「必ず仕留めろ!」
声が修道院内に響き渡り、一気に上の階も騒がしくなる。
あまりの兵の多さに、フースケは蒼褪めて思わず一歩退く。
「ど、どど、どうしよう!?」
慌てるフースケ。
その前へとハヤテが一歩進み出た。
「覚悟を決めるのだ、フースケ!」
声援を送ると共に、目を閉じて脳内に光を思い浮かべるハヤテ。
そして、兵に向かって手を翳すと、カッと目を見開いた。
手から光の弾が放たれ、兵の一人に見事命中。
当たった兵は突き飛ばされ、壁にぶつかって倒れた。
「タカ兄、すごい!」
フースケが関心している間に、ウィンディアも兵たちへと手を翳した。
途端に風が巻き起こり、兵たちを薙ぎ払ってゆく。
瞬く間に十名程の兵を倒した。
フースケは驚きのあまり飛び上がる。
「すごい! すごいよ二人とも! これなら兵が多くても勝てる!」
歓声を上げるフースケ。
だが、ハヤテは浮かない表情を見せる。
「いいや、敵兵が多すぎる。このままでは、こちらの魔力が先に尽きてしまう」
「ええ!? そんな!」
「くっ! 剣さえあれば……」
悔しむハヤテ。
その様子を見たフースケは、自分に何かできないか必死に考える。
と、その時、不意にフースケの体が淡く光った。
その脳内へとイメージが流れ込む。
修道院の周りに吹き荒れる風のイメージ……その気配が。
と、その映像の一点がキラリと光った。
「……そこだ!」
フースケの声に共鳴するかのように一筋の風が吹き込んだ。
その風に乗ってハヤテの手元へと届いたのは、先程彼が落としてしまった剣。
驚きのあまり、ハヤテは目を見開く。
「これは……!」
一瞬戸惑ったもののすぐさまハッとし、剣を握ると敵兵へと飛び込んだ。
瞬く間に倒れ伏す兵たち。
その間、僅か一秒にも満たない。
思わず拍手を送るウィンディアの隣で、フースケは自身へと溶け込んでゆく光を見つめていた。
「もしかして、お母さんの……」
呟くフースケ。
無言で頷くウィンディア。
そんな二人へと振り返り、ハヤテも力強く頷いた。
「フースケと母殿のおかげだな。さあ、次の階へ行くぞ!」
「うん!」
意気込んで階段を上る三人。
しかし、その先に待ち受けていたのは、矢を構える無数の兵たちだった。
階下からも潜んでいた兵が狙いを定めており、退路はない。
「しまった!」
ハヤテが叫ぶ。
彼はこうなる前に攻め込もうと考えていたのだが、一足遅かった。
なんとか防ごうと剣を構えるが、勝算などあろうはずがない。
直後、無数の矢が三人へと襲いかかる。
もうダメだと三人が思ったその時、再びフースケの体が淡く光った。
その途端、揺らめく青白い鳥の群が現れ、次々に矢を相殺してゆく。
慌てて次の矢を番えようとする兵たち。
だが、間に合うはずもなく、ハヤテの斬撃とウィンディアの風魔法によって沈む。
再び起こった奇跡に、フースケは父の言葉を思い返した。
「お父さん……。それに、皆も……」
フースケの心が温まる。
島で待つ者たちも願いは同じ。
この場にいなくとも、しっかりと届いた思い。
それに応えるべく、三人は戦い続けた。
こうして徐々に減ってゆく兵たち。
そして、ついに三人は一番奥の部屋まで辿り着いた。
乗り込まれた教祖は慌てふためく。
「お、おのれ無礼者! 生きて帰れると思うでないぞ! 者共、出合え出合え!」
喚きつつ、魔法により信者を召喚する教祖。
だが、それらは一瞬にしてウィンディアの魔法により薙ぎ払われてゆく。
そして、隙を突いてハヤテが飛び込み、諸悪の根源を切り裂いた。
教祖は倒れ伏し、呻き声を上げる。
「太陽は……我が修道院に、のみ……昇る……うぐっ!」
最期まで、語るは身勝手な思想ばかり。
その救いようのない姿をハヤテは白い目で見る。
そして、完全に息が絶えたことを確認すると、剣を収めフースケたちへと振り返った。
満面の笑みが返ってくる。
「勝った! これで僕らは自由だ!」
フースケの歓喜の声が響き渡る。
こうして、彼らはついに平和を勝ち取った。
この日の出来事は後に風乗りの伝説として語り継がれてゆく。
そして、彼らもまた英雄として語り継がれた。