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我慢の限界

 空に点在する浮島。

 その内の一つに、青い小鳥の姿があった。

 カゼスズメという種で、名はフースケ。

 この島の住人だ。


 彼はがけすれすれに立ち、遠く彼方かなたを見つめている。

 んだ空を思わせる美しい色とは裏腹に、その表情はとても険しい。

 目には映らずとも、知っているからだ。その方角にそびえる巨悪――サンセット修道院の存在を。

 とうに我慢は限界を迎えている。

 意を決し羽を広げたその時。


「また無茶をするつもりではあるまいな?」


 フースケは背後から呼び止められた。

 振り返った彼の目に映ったのは、真っ白で大きな鳥。

 ウィンドホークという種の知人、ハヤテだ。

 フースケは彼のことをタカにいと呼び、実の兄のようにしたっている。

 だが、今この瞬間しゅんかんに限っては、フースケにとって不都合な相手だった。

 フースケは顔をしかめるも、すぐに背を向け再び空をにらむ。


「今度こそ止めないでくれ! この間の暴動だって、止めに入りたかったのに!」

「ダメだ! サンセット修道院にはかかわるなと言っただろう! さからえばお前もどうなるのかわからないのだぞ!?」

「だって!」


 割れんばかりの大声と共に、フースケはハヤテへと向き直った。


「おかしいじゃないか! 島の資源を荒したり、勝手な思想を押し付けたり、教育だってそうだ!」

「耐えるのだ。お前にどうにかできる相手ではない」

「でもっ!」


 フースケが抗議しかけたその時。


「キャー!」


 突如とつじょ、けたたましい悲鳴が響き渡った。

 思わずハヤテが振り返る。


「何事だっ!?」


 警戒けいかいの声が雷のように鋭く響く。

 そして、その声とは似つかわしくない冷静さで、状況を把握すべく目を細める。

 しかし、不安にられたフースケがその判断を待てるはずもない。


「今の声……ウィンディア姉ちゃんの声だ!」

「あっ! おい待て!」


 言うが早いか、フースケは声のした方へと一直線に飛んだ。

 着いた先でその目に飛び込んできたのは、連れ去られそうになっている少女。

 純白のローブに身を包んだその少女は、この島のアイドル的存在――ウィンディア。

 そのウィンディアが複数の男に腕をつかまれている。


「やめてっ! 離してっ!」


 叫ぶウィンディア。

 その周りを囲む男たちがいやしく笑う。


「こいつはよさそうだ。この美しくんだ声なら、我らの新たなシスターとして充分な素質があるだろう」


 無理やり連れ去ろうとする男たちへと、フースケは迷いなく飛び込んだ。


「やめろー!」


 勇敢ゆうかんな声と共に飛びかかり、くちばしつつく。


「わっ! こいつ!」


 一瞬いっしゅんひるむ男たち。

 その隙にフースケはウィンディアの手を引き、全力で逃げ出す。

 だが、男たちはすぐさま態勢を立て直し、やりを構えた。


「我らサンセット教に逆らおうというのか!?」

「よかろう! 貴様ら二人ともこの場で処罰してくれる!」


 怒りの声を張り上げながら追いかけてくる。

 その声に恐怖をいだきながらも、自分よりフースケの身を案じるウィンディア。


「フースケ君! 私のことはいいから逃げて!」

「嫌だ! ウィンディア姉ちゃんは僕が守るんだ!」


 その手をしっかり握り、逃げるフースケ。

 だが、徐々《じょじょ》にその距離は詰められてゆく。

 そして、やりが届きそうになったその時。


「食らえ!」


 物陰からハヤテが飛び出し、剣で一突き。

 そして、華麗かれい剣捌けんさばきでまたたく間に一掃いっそう

 最後の一人が息もえにハヤテをにらむ。


「う……ぐ! 貴様……我らに楯突たてついて無事でいられると思うなよ……!」


 そう言い残し、その場に倒れて動かなくなった。

 剣を収めるハヤテへとフースケが駆け寄る。


「タカ兄! 助けに来てくれたんだ!」


 満面の笑みを浮かべるフースケ。

 だが、ハヤテは深刻な表情と共に溜息ためいきく。


「あれ程無茶をするなと言ったであろう。これで、私たちは反逆の罪を犯してしまった……。いいか? このことは私が一切の責任を負おう。お前はこの件には関わらなかった。わかったな?」

「タカ兄は……? タカ兄はどうなるの!? 僕のせいで……」


 うつむくフースケ。

 その頭をハヤテがポンポンと軽くたたく。


「心配するな。お前のせいではない。この島のアイドルを失うわけにも行かなかっただろう? ウィンディアを救い出したお前は勇敢ゆうかんだ。ほこれ」

「そんな……」


 フースケはそれ以上言葉にできず、ただ目をうるませた。


「さあ、今日はもう帰れ。ウィンディアは私が神殿まで送ろう」


 そう言い残し、ウィンディアを連れて飛び去るハヤテ。

 残されたフースケは一人、悔しそうに空の彼方を見つめる他なかった。

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