褒めたい盗賊と喪失の奴隷
盗賊が住み着いたらしい。そんな噂がとある街で流れた。その街の名アレガンストという街で、商業が盛んで、外からの出入りが多い。領主の調査によれば盗賊は本当に存在していて、噂の盗賊達はアレガンストに繋がる道の内の一本に住み着いているらしい。盗賊達はその道から出ることもなく、街にも襲撃をかけない。さらに盗賊達が住み着いた道は整備されておらず、見通しも悪いため、馬車も通らないし、冒険者達もわざわざ危ない道など通らない為、アレガンストを治める領主は、特に害は無いので放っておくと宣言した。アレガンストは、警備も厳重で兵士達もまた優秀なので、住民達も、領主の意向に異を唱えることも無かった。
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ガタガタ…道の悪い道路を走る馬車が三台。森の中のその道は、人が通った形跡もほとんど無く、整備されていない。何故、馬車がこんな道を走っているのだろうか…
この馬車が向かう先には、アレガンストという商業が盛んな街で、きっとこの馬車も売り物を詰め込み、街に売り込むために走っているのだろう。
「うひょ~久しぶりの獲物がきたぜぇ」
木の上、生い茂る葉の中から盗賊達の一人、『ターヤ』はニタニタを笑みを浮かべながら森の中を走る馬車を見ていた。ターヤの他にも数名が、その馬車を見ている。
「んじゃ、俺が先に行くか」
ターヤは仲間達に合図を送り、木の上から先頭を走る馬車の上に飛び降りた。
ダァァン…
大きな音を立てて、飛び降りたターヤ。後ろを走る馬車の操縦者は慌てて、馬車を止めた。
「おい!出たぞ、盗賊だ!!!」
先頭の馬車の上に乗るターヤを見た後ろの二台の馬車の操縦士は、ターヤを指さし声を荒らげる。
「お前ら、荷物何運んでんだ??」
ターヤは口角を上げニタリ…とした笑顔で話しかけた。
「ど、奴隷だ!半分は譲ってやるから、ここを通してくれ!」
この先の街、アレガンストでは奴隷は禁止とされている。つまり、違法商売という事だ。アレガンストはありとあらゆる国や村や街の人が集まる場所、内密に違法の物を持っていき、高値で売ろうとする者も居る。この馬車達は、道が整備されておらず警備の薄いこの道を盗賊がいるのも知っていて通ってきたのだろう。奴隷の半分を譲り、金を渡せば大丈夫だと、浅はかな考えを持って…
「お断りだな!」
ターヤは高らかに宣言すると、ベルトに仕込んだナイフを取り出し投げた。ターヤの投げたナイフは、2台目に並ぶ馬車の操縦士の頭を刺し、絶命させた。それを合図に、森に隠れていた盗賊の仲間達が馬車を囲む。
「なっ…金もある!金もあるから…」
命乞いなど、悪役非道の盗賊達が聞き入れる訳もなく、ターヤ達は次々と違反商売人を殺していった。
「おっす!お疲れ様っす~」
「今日も最高でしたターヤせんぱ~い」
「ちぇっもう終わりかよ、あっけねぇな」
盗賊団達は、違反販売人の死体を森の茂みに隠した。
「それにしても結構な人数運んでましたね~」
閉められていた馬車の扉を開けると、枷を付けられている奴隷が詰め込まれていた。奴隷といっても、恐らく何処かから誘拐してきた者達なのだろう。
「これは、大変っすね」
「ん~どうしますぅ?ターヤせんぱ~い」
「んなもん、決まってるだろ」
ターヤ達はニヤニヤと悪い笑みを浮かべながら奴隷達を見る。奇抜なファッションなターヤに、全身傷まみれの怖顔の男や、顔の半分を隠している男達を前に、奴隷達は震え上がる。奴隷達を全身を舐めまわすように見た後、ターヤを見た。
「全員家に返す!」
ターヤは最高の笑みで言った。仲間達も、それに賛同し、ワイワイと盛り上がった。
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アレガンストに繋がる道に盗賊が住み着いたらしい。そこは、道の整備もされず、整備も薄い道。そこに住む盗賊達は、アレガンストを守る『兵士』だった。外から入る違法商売の密輸を防ぐ為に、領主が考えた囮の道。まんまとその道を通った違法販売人は、盗賊のフリをした兵士達に断罪されるのだった。
保護した奴隷達は、ターヤ達と領主によって家に帰って行った。だが、1人だけ身元が分からず、声を失った少女が居た。その可憐な少女に惚れたターヤが褒めまくり、その少女と末永く幸せになるのは、後の話である。
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長編が向いておらず、本来連載だった小説を短編にしました。