『ざまぁ』です。
「マルセーヌ様、そろそろ、ご起床されませんか?」
カーテンが開けられたか、
瞑っていた目でも明るさを感じる。
「あ~、ありがとう。何時だ?」
「11時でございます。お食事はテーブルに準備致しております」
はっ、と頭が覚醒する。
かなり疲れていたはずが、スッキリしている。
魔石の効果か??
マジマジと手に持っていた魔石を見る。
それにしても寝すぎだな。
こんなに寝たのは、久しぶりだ。
さすがローリック家の魔石だな!!
ベッドから出ると、王宮付の侍女は、寝室から出て、
続きの応接室の方で食事を用意してくれている。
執務着に着替え、応接室に向かう。
「王太子殿下は、いかがされている?」
この時間まで起こしに来ない理由は、
殿下からの呼び出しがないからなのだが……
しかし、寝すぎだな。
苦笑してしまう。
侍女はクスクスと笑いながら
「殿下は、アイリス様へご機嫌伺いに出かけられました。
あまりに早くに出ようとされるので、殿下付の侍女から怒られていました」
昨日、受け取れなかった花束を
侍従はシッカリと管理してくれていたようで、
キレイなまま王太子に届けられ、すぐさまアイリス様へ届けにいったらしい。
「‥‥‥女性を、朝早くに訪ねるなんて、迷惑だとおもわないのかね」
ため息混じりに言うと、
「迷惑よりも、嬉しいと思いますよ。アイリス様ですもの。
マルセーヌ様は、もっと奥様を大事にしないとダメですよ」
昔から顔なじみの侍女に怒られてしまう。
俺の奥方‥‥‥
基本、領地から出てこない。
自然を愛し、
社交シーズン以外は領地に引っ込んでいる‥‥
俺の方こそ、大事にしてもらいたいものだ。
午後から、忙しくなるので、
俺も殿下も午前中の仕事は入れていない。
アイリス様へ会いに行くのも、予定の範囲内だ。
その間、俺は隣国との交渉の報告の最終チェックをしておこう‥‥‥
しかし、有利な条約を結ぶことが出来た。と喜んでいたのだが
これもローリック侯爵にお膳立てされた事だと思うと
腹立たしい。
全く、どこまでが彼の思惑の中なのか、考えるだけで恐ろしい。
昼も、自室で取り、
謁見の時間となる。
殿下を呼びに行くと
すでに準備は整っていた。
謁見の間に行くとため、歩をすすめながら、聞いてみる。
「殿下、アイリス様はいかがでしたか??」
「・・・・泣かれた・・・」
花束を持って、ご機嫌伺いに行って、
ダイアナの事を責められて大泣きされたらしい。
この数日は、泣き暮らしていたらしく、やせ細っていもいて、
ダイアナが生きている事を伝え、
彼女から送られた『治癒』の魔石も贈ったのだ。と・・・・
涙は、うれし泣きに代わり
結局、会っている間中、泣かれていたらしい
まぁ~、頑張ってくれ!
それしか、言えないな。
謁見の間に着き、王たちは来たのを確認し、
俺は、先に別の扉から中へ入る。
殿下、王、王妃、側室が続いて入ってくる。
すでに他の者は定位置についていた。
いつもと違うのはウィリアム殿下が、側室の横ではなく
側近やリリー嬢と中央にいるぐらいか‥‥‥
彼らは、お茶会の日から王宮で軟禁されていた。
両親との面会は可能であったが、
外部のものとは、会っていない。
初めての場所にリリーは嬉しそうにキョロキョロしていたが、
他の4人は狼狽しているように見えた。
陛下たちが部屋に入ると、
人が割れ、その間を歩き、
一段高くなっている場所にある椅子へたどり着くと、腰かけた。
「みな、面をあげよ」
礼をしている、室内の者に陛下が一声かける。
俺は殿下の後ろに立ち
父は陛下の後ろの立ち位置から、下段に降りた。
それが、合図となった。
「ウィリアムの請願書により、この場を設けた
みな真実を話し、嘘偽りないことを誓え」
「「「「誓います」」」」
「これで、よろしいか?枢機卿」
段下に並んでいる枢機卿の方に同意を求めると、
頷いたのが見える。
父である宰相が引き継ぐ
「まず、ウィリアム殿下の婚姻についてですね。
ウィリアム殿下の願いにより、
ダイアナ・ローリック侯爵令嬢との婚約を破棄し、
リリー・フランキー男爵令嬢と新たに婚約をされたい。
と、いう事で間違いないでしょうか?」
「間違いありません。
俺は‥‥リリーをあいして」
「簡潔に答えていただければ、良いです」
不敬にも、王子の言葉を父が遮った。
「陛下いかがですか?」
「認めよう」
うわー、とウィリアム殿下たち一行が喜声を上げた。
狼狽していた殿下たちが、
自分たちの主張が認められたと、喜びの顔に変わっていく。
「では、ウィリアム殿下。婚約は認められました。
ただ、一度婚約破棄をされておりますので、
リリー男爵令嬢との婚約は婚姻ともみなされ、
これ以降、破談にすることは、
殿下からも男爵令嬢からも認めれらません。
それでも、よろしいですね??」
「「もちろんです」」
二人が手を取り合って返事した。
「神の誓い。として承った」
枢機卿がにこやかに宣言する。
「「ありがとうございます」」
「では、続いて婚約破棄の原因となった
ダイアナ侯爵令嬢の罪。
この書状に間違いはないか??
ウィリアム殿下、マルクス、ジョエル、ハンス
の依頼により、文章をクレイシーが作ったのだな?
ここに書かれている罪は事実なのか?」
「「「「間違いありません」」」」
「クレイシー・サンドラス、そなたも間違いないか?」
並んでいる大人たちの末席からクレイシーが出てくる
「申し訳ありません。宰相閣下。
私は罪の真偽については、関知しておりません。
第二王子殿下やマルクス様から聞いた事件を、
一番罪が重くなるようにしてくれ。と、言われたので、
書状を作ったまでです」
「お、お前、何を言っているんだ!!」
マルクスが叫んだ
「本当の事を言ったまでです。
枢機卿までいらっしゃって、証言するのですから、
王子殿下の依頼だとしても、嘘をつくことはできません」
「そんな事‥‥‥」
マルクスは、今の状況を理解しだしたらしい。
騎士団長の息子のハンスや魔導士のジョエルは、まだ理解していないのか、
「書状の内容を作ったのは、クレイシーだが、
それは、リリーから証言をちゃんと確認している。
大げさにしているとしても、法律には当てはまっているはずです」
と、口々に申したてる。
騎士団長とジョエルの父親である魔導士長が頭を抱えている。
ここまで、アホなのか‥‥‥‥
「皆の意見は理解した。軟禁のような真似をして悪かった。
真偽の確認に手間どったのでな」
宰相は納得したように、一人頷いた。
「わかってくれれば良いのです。王宮の暮らしは楽しかったです。」
リリー嬢が笑いながら答える。
なぜ、上から目線。
「リリーは、優しいからな」
ウィリアム殿下は状況を全くわかっていない。
リリーの頭をなでながら、幸せそうに笑っている
側室殿の方を見ると、今にも倒れそうな顔色で震えている
陛下は、吹っ切れたのか楽しそうだ‥‥‥
王妃は、何を考えているのか‥‥‥顔色ではわからない
殿下は‥‥‥‥呆れてるんだな。これ。
「私からの確認は以上です。
他にご意見ある方は、いらっしゃいますか??」
とくに何もないようだ。
まぁ、茶番だからな。
昨日の会議で決まった事を淡々と進めている。
しかし、ここまで思いどおりに進むのか・・・・
我が弟ながら情けない。
「皆さんが、ないようですので、
私から申しあげます」
クレイシーの隣にいたマイケルが声を上げた。
「マイケル・ハリスライードです。
卒業パーティーの時にお話しをいたしましたが、
先ほどの罪の、殺人未遂。それは冤罪です。
当日は、ダイアナ様と一緒に学校へ行っておりませんでした。
学院へ申請を出しておりますので、問い合わせていただければ、
確認ができるはずです」
パーティーと同じ内容を証言する。
「そ、それは、リリーがすでに日付が間違っていた。と、言ったはずだ」
ハンズが答えた
「おかしいですね??
先ほど書状に間違いがない。という事は誓ってますよね?」
マイケルが笑いながら答える
「そ、それは内容は間違いなくて…‥‥
日付とか些細なことのだから、良いかと思って」
リリーが叫ぶ
「些細な事って‥‥‥‥この書状でダイアナは亡くなっているのですよ」
マイケルが答える
ウィリアム殿下たちは、その事をまるで知らなかったように
驚いた顔をする。
ローリック侯爵から、伝えられていることは侍女たちから報告を受けている
まさか、忘れていたのか?!
「自殺でしょ!!そんな事知らない!!私たちのせいではない!」
リリーの発言が部屋の中を響き渡る
「黙れ!!聞いていれば、何を言っているんだ。お前たちは
お前らのせいで、どれだけ国が損害を受けたと思っているんだ!!」
それまで黙っていた陛下が立ち上がり言い放った。
「お前たちの書状が全て嘘だと、確認できている。
証拠もある。言い逃れなど出来ぬと思え!!」
宰相が、ウィリアム殿下の前に文章を投げ捨てた
そこには、冤罪を証明できる内容が、事細かに記載されている。
王子たちは、青ざめ震え始めた。
「では、決定事項のみ伝えさせていただきます。
あとは、それぞれのご実家にお任せいたします」
宰相は続ける。
「ウィリアム殿下、
素行不良により臣籍降下。フランキー男爵に婿入りしてもらいます。
これ以降、王族としての権利は全てはく奪されます。
ただし、準備期間として二週間猶予を与えます。
マルクス・アンダーソン。
おまえはリリー嬢と離れるのはイヤだと、言っていたそうだな。
ウィリアム殿下と一緒にフランキー男爵のもとへ行け!!
学院で習ったことを活かして商会で働かせてもらえ!!
ジョエル・パーカー、ハリス・ウェスト
そなたらは、辺境伯が身柄を預かってくれるそうだ。
一兵卒として、働いてこい!
クレイシー・サンドラス
ローリック侯爵家が引き取るそうだ。新しい侯爵のもとで働け」
クレイシーは、ローリック家に仕える事を希望していたのだが、
他の者と同じように言い渡されるのは、
恨まれないようにとの配慮だ‥‥
「リリー・フランキー
そなたには、特に罰は与えない。
ただ、ウィリアム殿下との婚姻は、無効に出来ないし離別も出来ない。
持参金も用意するつもりは王家にはない。
一生養ってくれ」
‥‥‥公爵妃になれる。と思っていたのに
お荷物を二人も付けられて実家に帰される。
フランキー商会は、ローリック家が陰で支えていたから繁盛できていた。
技術開発、外商などの責任者をしていた者たちは既に退職している。
魔石の入荷を制限はされていないものの、優先的な納入ももうない。
今持っている技術は残るので、急に落ちぶれる事はないだろうが、
あとは力量しだいではある。
今までのような贅沢は出来なくなるはずだ。
マルクスは、それなりに役立つだろう。
彼の能力があれば、立て直すことも出来るかもしれない……
あとは、本人たちのやる気だな
父の宣言が終わる‥‥‥
すると王が昨日の会議で決まってい無かったことを一つ加えた。
「側室エリーザ
そなたは、実家である伯爵領に戻れ!!
ローリック家と婚約を結んだことは、褒めてやる。
かの家を王家に取り込む事は悲願だ。
ただ、この体たらくはなんだ
ウィリアムを教育できなかった、そなたの責任は重い。
ダイアナを娶るだけで、公爵にさせられると思ったのか!!
今回は、ローリック家の世代交代だけで残ってくれたが、
侯爵家自体が出奔する可能性もあった。去られたら国が亡ぶぞ。
スタンピードを抑制してくれいるのが誰か忘れてはいけない!!」
公爵家は現在3家、それとローリック侯爵家、辺境伯で五芒星と言われる
王都の守護神ともいわれる5家だ。
古には、4公爵+辺境伯で五芒星であったが、
聖女が降下した時から、公爵家は4家となっていた。
ローリック家の為に、
他に誰も許されなかった公爵位があった。と、いう事だ
みなが息を飲む。
忘れがちだが、
魔の森から魔物が出てこないよう狩りをしているから、
この国は、他よりも魔獣による被害が少ない。
側室への罰は、
貴族たちへの見せしめでもあるのだろう。
ローリック家の重要性
その事実に背筋が凍る。
「本日は、これまで!!
異議は認めない。速やかに処分を執行しろ」
それだけ言うと、王が立ち上がり、
王妃の手を取り、部屋を出て行った。
王太子殿下も側室も立ち上がる事が出来ない。
ウィリアム殿下や側近は、
自業自得だ
殿下を促し、俺も部屋を退出した。
結婚は認められたウィリアム殿下。
本当の愛情があれば、きっと上手くやっていけるだろう。
この処置は、本人たちには知らされないが、
二年間の期限付きの処罰となっている。
2年後ウィリアム殿下とリリーは、伯爵位と小さな領地を与えられる。
マルクスたちは、元の地位に戻る事も可能となる。
まぁ、我が家の場合は父が許さないだろうが……‥
二年間、長いのか短いのか。
自分の責任と向き合ってくれれば、
きっと今よりも大きく成長して帰ってきてくれるはずだ。
それを楽しみに待とう‥‥‥‥
俺も、彼らに負けないよう成長しないとな!!
エドワルド殿下も半年後には、アイリス様との婚姻が待っている。
俺の努力‥‥‥
とりあえず、嫁に帰ってきてもらおう
一人では、寂しすぎる
終わり
ちゃんと、ざまぁになっているかな??