御前会議
王宮の門に着いた。
衛兵に止められはしたが、すぐに身分は確認された。
まずは、自分たちの部屋へ戻り着替える。
このままの服装では、王への面会は認められない。
護衛と王太子の自室まで、送り
おれは、自分の執務室。
護衛たちは、引継ぎの為に親衛隊の事務所に向かっていった。
王、王妃には面会の申し込みと帰国の先触れを出しておいた。
すぐに、返信がくるだろう・・・・・
トントン
俺の執務室のドアがノックされる。
「誰だ?」
声をかけると、従者が入ってきた
「おかえりなさいませ。
さっそくですが、王から面会の許可が下りております
王太子殿下とご一緒にご案内いたします」
思っていたよりも、早かった。
面会には、もう少し時間がかかると思っていたんだが、
「わかった。殿下のお部屋に迎えに行こう」
着替えが終わっていたので、先ほど来た道を戻り、
王太子殿下の部屋に到着します
トントン
「マルセーヌです。王との面会が許可されました。入ります」
部屋に入ると、着替え終わって
紅茶を飲みながら、書類に目を通す王太子がいた。
「わかった。案内しろ」
先ほど呼びにきた侍従が先に歩き、
その後を俺と王太子が続く
「いやに早いな」
「そうですね。謁見まで、もう少し時間がかかると思っていたのですが・・・」
進んだ先は、謁見の間でも、王の私室でもなかった。
会議室。
通常使う会議室ではなく、大人数が円卓を囲む事が出来る参謀会議室だ。
ここを使うことは、今はほぼない。
「珍しいな、この会議室を使うのは。王は、すでに入室済みか?」
不思議に思って聞いてみると
「すでに皆さま。席に着かれております」
侍従は、返事をしながら、
扉の前にいる衛兵と目で合図をしてノックをする。
トントン
「王太子殿下をご案内しました」
「はいれ」
奥から返事がし、ドアを開けて、
部屋の様子が目に入る。
思わず、回れ右をして自室に帰りたくなる。
何の御前会議だ??
正面には、王、王妃、側室が座り
宰相である両親を始め、他2公爵
騎士団長、各大臣たち‥‥‥
通常の会議と違っているのは、夫人同伴が数人いる事か
彼らが立ち上がって迎えてくれている。
「エドワルド、ただいま帰りました」
「マルセーヌ、ただいま戻りました」
王に向かって、王太子とともに
右手を左胸にあて、最上級の礼をした。
「二人とも、よくやってくれた。
報告はすでに、聞いている」
王から労いの言葉をいただく。
「ありがとうございます。
詳しい内容は、別途報告をさせていただきます
‥‥‥しかし、この状況はどうされましか??
まさか、私の凱旋パーティーでもありませんよね。
この時間に帰る事は、知らせていなかったと記憶しておりますが……」
王太子がニヤリと笑いながら、問う。
「早馬を走らせたはずだが……‥
連絡は、入っていないのですか?」
父である宰相が代わりに聞いてくる。
「国境を越えてから、何の連絡も届いておりません。
流石に、連絡がない事を不思議に思い、殿下と馬を走らせました」
俺が答える
「ローリック家か‥‥‥、あれが絡むと、全てが後手に回るな」
苦虫を嚙み潰すように、父が呟く。
「わかった。エドワルドもマルセーヌも席につけ。
皆も座ってくれ‥‥‥
状況を説明する。マイケル・ハリスライード頼む」
王から着席の許可を受け、王とは反対側、末席にあたる部分に座る。
王太子の席は、王の隣が通常の指定席であるが、
わざわざ他の方に席を移動させるほどのことではない。
マイク‥‥‥
マイケル・ハリスライード
アイリス嬢の弟で、次期公爵を継ぐ身分であるが、
何を考えているのか、王太子にもウィリアム王子にも距離を置いている人物だ。
個人的には、ハッキリとした貴族らしくない性格は嫌いではない。
「では、僭越ながら説明いたします‥‥‥
学院内での事は、後からの説明に重複することも多いので、省きます。
卒業パーティーでの出来事から説明をさせていただきます」
‥‥‥まず、ダイアナ・ローリック侯爵令嬢の
と、前置きをして
「‥‥‥まず、ダイアナ・ローリック侯爵令嬢はエスコートもなく
おひとりで入場された事から波乱のパーティーが始まりました‥‥」
報告された事に、血の気が引いた。
隣に座っている殿下の顔を覗き見ると、
やはり、顔色がわるくなっている。
淡々と続けられる言葉と、
内容の重大さの開きに、事務能力の高さが伺える。
途中、側室を始めご婦人方が気を失い退出していくなか、
マイクが一通り話し終わった。
王や公爵たちは、既に周知されており、
ご婦人たちにも知らされていた内容だったようだが
この会議室の空気に耐えられなかったようだ。
‥‥‥出来るなら、俺も気絶したい!!
最後に爆発宣言
「断罪された罪の重さから、ダイアナ・ローリック侯爵令嬢は自害されました」
息を止まる。
目の前が真っ白になった気がした。
このまま、気を失ってしまえば、どれだけ楽なのだろう
何をやらかしてくれた。ウィリアム王子!!
ガタン、
思わず、王太子殿下が席を立ってしまったようで
座っていたイスが後ろに倒れた。
「自害??それは、ダイアナに間違いないのか??
彼女が、そんな事をするはずがないだろう」
「事実です。担当した司祭、医師からも確認しました。
死亡届も受理されております」
国内の教会のトップである、枢機卿が答えた。
「ウィリアム殿下がダイアナ嬢の罪としたのは‥‥‥
国家反逆罪に、殺人未遂‥‥‥
色々と騒ぎ立ててくれました。
これには、恥ずかしながら息子のマルクスも深く関わっている」
王の横にいた、親衛隊の騎士から
机に置かれていた書類が、殿下に渡された
それを、軽く目を通し
隣の俺に殿下から手渡された
読んで、目を丸くする
なんだ、これバカにしているのか??
犬をけしかけたから、国家反逆罪??
階段から落とされて、殺人未遂??
こんな事を真に受けたら、貴族も庶民も重罪人だらけだろう?
「父上、これを本気にされたのですか??
罪状もおかしいが、ダイアナ嬢がするわけないだろう?
マルクスが関わっているだと!!
あれは、ウィリアム殿下を諫めることもしなかったのか」
無礼であるが、つい口に出してしまった
「諫めるどころか、率先して書状を作っていたらしい」
吐き捨てるように、言い捨てる
「ウィリアム殿下の名前で出された書状だ。
どんな内容だろうと、無視はできない。
‥‥‥とりあえず、座ってください殿下‥‥‥
真偽を確認している間に
ダイアナ嬢が自害し、
ローリック侯爵とトルスタイン殿が出奔した‥‥‥」
一度、座らせた殿下が、また立ち上がる
「なんだと!!」
情報量が多すぎて思考が止まる。
言葉が理解できない。
頭が拒否している。
とりあえず、横の殿下を再度、座らせる
父の顔をよく見る
ここ数日、寝ていないのだろう
酷く目が窪んでいる。
父だけでなく、王も、他の者たちも同じ表情だ
会議室には、すでに女性は誰もいない。
いるのは、王と側近と言われる重職たち、枢機卿と護衛の親衛隊。
当事者はマイクだけか‥‥
騎士が従者のかわりをしており、
先ほどとは別の書類を、俺たちの方に持ってくる。
冤罪であることの証明書類
御璽が押され、陛下のサインがされている
ローリック侯爵の爵位譲渡の書類
外務大臣、財務局辞任の書類
領地、財産譲渡の書類
「陛下、こちらには御璽とサインがされておりますが………
許可されたのでしょうか??」
王太子が直接、陛下に尋ねる
「‥‥‥いや、許可は‥‥‥覚えは‥‥
ローリック家のやることだ‥‥」
王が言い淀む
きっと、ローリック侯爵が、うまくやったのだろう
「エドワルド、最初の質問に答えるぞ。
この会議で、騒動の落としどころを見つける。
隠匿するには、事が大きすぎる」
会議の目的を明確にする王。
俺も今まで、思考を放棄していた意識が戻る。
さて、大変な事態に巻き込まれた。
過ぎた事を言うのは嫌いだが、
卒業パーティーに王太子殿下が間に合っていたら、防げた事が多いだろう。
ウィリアム殿下の計画は穴だらけだ!!
魔石はローリック侯爵家からの献上品。
トルスタインは、土魔法が達人だ。
疑いたくないが、川の氾濫も土砂崩れも彼なら起こせる。
何より、この規模の自然災害なのに死傷が出ていないのも不自然だった。
今考えると、全てが出来すぎてる。
と、なるとダイアナ嬢も生きてるか‥‥‥
やられたな
いつから用意していたのか??
考えるだけで恐ろしい。
隣の殿下も、同じような結論に達しているようだ。
呆れた顔になっている。
この中の者も、ほぼ同じ結論なのだろう
さて、落としどころを決めなければならない。
‥‥‥掌で踊らされていたか
ため息が出そうになるのを、必死でこらえた。
会議は、時間がかかるだろう。
疲れたなぁ~。
全て放って、家に帰りたい。