帰路、最後の夜
王都に向かう最後の宿についた。
宿といっても、子爵邸宅をそのまま働く者も含めて、
丸ごと借り受けた。
この邸宅は、王都から馬車で1日の場所にあることから、
宿代わりに使う貴族が多い。
王太子は、先を急ぎたかったようだが、
行程をこれ以上変えることは、不可能だった。
夕食も終わり、それぞれ自分たちに割り当てられた部屋に戻り休む
王太子殿下の部屋の前には護衛が立っている
「悪い、殿下に報告がある。通るぞ」
護衛に一声かけて、ドアのノックする
「誰だ」
「マルセーヌです」
「入れ」
許可を得てから、部屋に入ると、
部屋着に着替えた殿下が、
備え付けの応接セットに酒を用意してくれた。
「とりあえず、座れ
すぐに終わる話でも、ないだろう」
先にソファに深く腰掛けると、俺にも席をすすめてくれた。
「失礼します」
座ると、ブランデーが入ったグラスを置いてくれた
「悪い予感が当たりそうだな」
小さく、呟く
「殿下、ここにも手紙も報告も届いておりません。
やはり、王宮で何かあったと推測されます……」
この邸宅に泊まることは、早馬で知らせてある。
アイリス様からの手紙がなくとも、
少なくても、王宮からの連絡事項が届いていないはずがない。
「そうだな。ここまで静かだと、かえって不気味だ
箝口令も出されているとみて、間違いないだろう」
「いかがいたしましょうか?」
はぁ~
一難去ってまた一難。やっと王都に帰れると思ったのに、
悪い予感しかしない……
「馬車は、そのままの行程で帰らせる
俺とマフィーは、先に騎乗で王宮に向かぞ!!
護衛は2人で良いか……」
馬車で帰るより、秘密裏に戻った方が安全だな。
何が起こっているか、わからない。
杞憂であれば、それで良い。
「かしこまりました。手配いたします。
明るくなる6時の出発でよろしいですかね??」
「それで、頼む」
「殿下、ひとつ確認が・・・」
「なんだ??」
「手配していました、アイリス様への花束はいかがしますか」
「えっ・・・それは・・馬ではとりにいけないよな・・・」
やっぱり、アイリス様が絡むとポンコツになる。
「馬車で通るときに受け取るように、従者に頼んでおきます」
心底、ホッとした顔になる
「頼む」
その一言を聞いて、俺は席を立った
「では、殿下。明日は早いので、もうお休みください」
ドアに向かった俺に
「2人の時は名前で呼んでくれて、いいんじゃないか・・・」
小さな声が聞こえた。
・・・・口説かれているのか?
「そのセリフは、アイリス嬢にだけ使ってください
・・・・エド様、もう寝てください」
「ああ」
扉から出る俺に、小さな返事が聞こえる。
エドワルド殿下……
気を許した人にはヘタレとなってしまう。
優秀な高貴な方。
お守りしますよ。
何が起こっているのか、わからない状態が一番困る。
明日になれば、わかる事なのだから悩まない。
今できる最善の事をすれば良いのだ。
朝までに手配、連絡をしないと行けない。
忙しくなってきたぞ!!
気合を入れなおし、
随行の者が待つ部屋に向かった。