第9話 ユウレイ コワイ
夕食を食べた俺はすぐにお風呂に入った。
お風呂もふざけてるんだろうなーと思いながら風呂場に行くと、予想と全く違う光景が目に映った。
そこは露天風呂だったのだ。
シャーロットはお風呂にはえげつないくらいのこだわりがあるようで、なんちゃら産の石を置いているだのなんちゃら熊の油を使った石鹸だの色々言っていた。
まぁ、何が言いたいかというとお風呂には一切のおふざけがなくめちゃめちゃ快適だったということだ。
あぁ、本当に快適だった。
快適だったなぁー。
さ っ き ま で は。
「···寒いよぉ」
義男は何も家具の置かれていない自室で体育座りで丸くなって震えていた。
本当にひどいぜ。全く。
布団がないと夜ってこんなに寒いんだな。
床も固いしよぉ。埃だらけだしよぉ。
さっきのお風呂からの落差すごすぎ。
何もすることない上に眠気もなかったので数時間義男はこの状態だったのだ。
「あぁ、凍え死ぬんじゃねーかな」
そう独り言をこぼした時だった。
義男の視線の先、何も飾っていない真っ白な壁から髪の長い半透明の女の人が義男の方を見ながらスーッと出てきたのだ。
「···ぁう···あああ」
義男の三大苦手なもの。ピーマン、注射、そして幽霊。
義男は怖さのあまりほぼ声が出ず、半泣きしていた。
その間にも女の人の霊は義男の方に一歩ずつ近づいてきている。
義男は恐る恐る下がっていったがついに部屋の隅に追い詰められる。
···もうだめだぁ。···ママぁ。
···怖いよぉ。···助けてぇ。
小さい時に読んだ心霊ガイドブックの「手を狐の形にしたら幽霊は怖がって逃げていきます」という一文を信じて両手を狐の形にしてみたものの霊は帰る気配を見せない。
すると女の人の霊がそっと口を開けた。
「あ、あの、寒いなら、わ、私の部屋、く、来る?」
ワタシ ノ ヘヤ キマス?
ユウレイ ノ オウチ タブン テンゴク ノ コト。
オレ マダ シニタク ナイ。
「···い、いやだぁ〜。···死にたくないよぉ〜」
義男は泣きながら弱々しくそう言って首を振ると
「あ、あ。な、泣かないで」
「···ふぇ?」
エ? ナカナイデ?
コワガラセニ キタンジャ ナイノ?
「わ、私は、隣の部屋の、ユウラ・インキャラメル。し、シャーロットの、弟子」
デシ? シャーロット ノ?
「···幽霊じゃないの?」
「ゆ、幽霊?···あ。スキル使いっぱだった」
そう言うと霊のように透けていた体は、普通の人間の体になった。
あぁ、よかった。本当に良かった。
幽霊じゃなかった。よかった。
「···ユウラって言ったか?」
「あ、うん。そうだよ。こ、怖がらせてごめんね」
そういうとユウラは頭を下げた。
「こ、こんな怖い人と一緒の部屋いたくないよね。は、早く帰るね」
「あ、待ってくれ。あの、寒いのはきついからやっぱ君の部屋に行ってもいいか?」
義男は帰ろうとしたユウラを止めて言った。
確かに幽霊だと思ってた人と同じ部屋で寝たいとは思わない。まだ怖いもん。
だが、今は元幽霊の怖さ<寒さなのだ。今夜はユウラの部屋に行かせてもらおう。
「え、あ。わかった。いいよ。じゃあ、ついてきて」
そう言ってユウラは義男の部屋を出て右隣りにある自室に案内した。