第5話 意地悪クソババア
義男は喫茶店で休憩をしていた。
「あはぁ〜、お茶がうめぇ」
苦さはあるものの、飲み込んだあとにくる微かな甘みがおいしい。
無一文だったらどうしようと思っていたが、幸いなことに初期装備として10000ドゥクシがポケットの中に入っていたので、とりあえず一杯60ドゥクシのお茶を飲むことにしたのだ。
ドゥクシというのはこの国の通貨である。決して男子小学生が攻撃の時につける効果音ではない。
するといきなり後ろから
「おいクソババア、そこの席は空いてるか?」
と声をかけられた。
おいクソババアですってぇ〜?
怒ったかんな!許さないかんな!オッパ江南スタイル!
どんな奴だ?顔を見てろう!
そう思い「あぁん?」と言いながら声がした方を振り返った。
するとそこにはサングラスをかけ両手で二本の杖をつきプルプルと小刻みに震えている、自分よりももっとヨボヨボなおばあさんが立っていた。
「聞こえんかったのかクソババア、そこの席は空いてるかって聞いておるのじゃ!」
「ひぃ!あ、空いてます!···っていやいやいやいや!人のこと言えないくらいアンタもババアだぞ!?」
「知っておるわ、わしはクソババアを超えたクソババア『意地悪クソババアZZ』じゃからな」
そういいながら5秒かけてテーブルを挟んだ向かいの席に座った。
『意地悪クソババアZZ』って言ったか?俺の『EXCITING☆老婆』の他にもババア系の二つ名があったのか。
ってか序盤からババア二連続ってどういうことだよ。キャラ渋滞してんぞ。
ってことはこのおばあさんもババアに関係するスキルを何かしら使えるってことだよな?
ということはこのクソババアとは話してみる価値があるかも知れないな。口悪いけど。
「き、今日はいい天気ですね」
「なんじゃお前コミュ障か。おしゃべり初心者か。コンビニの外国人店員の方が上手に話すぞ?そんなテンプレな話の始め方するやつ実在しとったんか。びっくりじゃわ」
そう言いながらおばあさんは口元を手で隠して「ひやっはっは」と独特な笑い方で義男をバカにした。
口悪いぃぃぃぃぃ!!
こんないきなりマシンガンのように罵倒されたのは初めてだ。
FPSでゲーム序盤に武器をまだ拾えていないプレーヤーをアサルトライフルで蜂の巣にしたあと死体撃ちをしてエモートで煽る中坊のごとく俺をバカにしやがって!
もういいや、罵倒されても気にせずに話を進めることにしよう。
敬語もやめだ!こんな敬えないババアも珍しいけど。
「いきなりだが質問していいか?見て分かる通り俺もババア系二つ名の所持者なんだが、おばあさんの二つ名『意地悪クソババアZZ』がどんなスキルが使えるのか教えてくれないか?参考にしたいんだ」
「···流石じゃな。わしの罵倒に心折れることなくすぐ立ち直り、何よりも先にわしのスキルについて聞いてくるとは」
いきなり俺褒められてる感じか?
もしかして、このおばあさんってアニメとかにいる口は悪いけど根はいいやつみたいなキャラなのかな?
ちょっと嬉しいぞ!
「まぁ、こんな悪口で落ち込むようなのは二流ですからな」
「ちょっと褒められたからってすぐ調子に乗るなブス。勘違い野郎が。ゴキブリの方がまだマシな顔しとるぞ」
前言撤回。このおばあさん、いやこのクソババアは根まで腐りきってるわ。
下手なこと言ったらすぐにカウンター食らうな。
「まぁいい。わしのスキルじゃな。見せても良いが一つ条件があるのぉ」
「その条件ってのはなんだ?」
「わしはハジメノ祭で開催される大会に参加する予定だったんじゃが腰を痛めてしまって参加できなくなってしまってのぉ。代わりの人を探しておったんじゃ。どうじゃ?わしの代わりに出てくれんか?大会に向けた訓練の一環としてならわしのスキルを見せてやろう」
大会!?アニメとかである闘技場で他の冒険者と戦うって感じの展開か?
こんなクソババアが出るってことはシニア部門とかあるってことかな?
まぁ、大会系のイベントは異世界ベタだからとりあえず参加してみるのもいいかな。
「わかった。大会に出よう!」
「おう、なんとも頼もしいな。じゃあ早速わしのところで訓練を始めるとするか」
クソババアは少し満足そうにそういうと10秒かけて席を立った。
その間義男はクソババアと自分の飲んだお茶のカップを返却しておいた。
「自己紹介が遅れたの。わしの名前はシャーロット・ワリューグチじゃ。お前は?」
「俺の名前はよし···!?」
ちょっと待って!?
この世界来てからまだ自己紹介してなかったから気付かなかったけど名前どうしよう。
いくらなんでも吉田義男は男っぽすぎるもんな。
えぇい!適当に言ってしまえ!
「俺の名前は、ヨシコ・ヨシドゥローバだ!」
圧倒的ネーミングセンスのNASA!頭のネジがロケットばびゅーん!
吉田義男感が消せなかった。
名前は義男をおばあさんっぽくヨシコにして、苗字は吉田のあとに外人っぽいやつをつけてみただけだ。
「変な名前じゃな」
「礼儀って知ってるぅ!?失礼極まりないなおい!」
もっとかわいい名前にしておきたかった。
だって俺の隣を歩いてるこのクソババアの名前がシャーロットだぞ?
シャーロットって、金髪のかわいい女の子の特権だと思ってた。
俺のかわいいかわいいシャーロットちゃんのイメージを返せよおい!
こうして俺、吉田義男は今日からヨシコ・ヨシドゥローバとして生きることになった。