第3話 『EXCITING☆老婆』
「はぁ、はぁ、どうやら逃げ切れたみたいだな」
そういうと義男は足を止めた。
無我夢中で走って、いや歩いていたら都市の中心から少し離れた路地についた。
とりあえずしばらくはここで体力を回復しないとな。
ってかあの女の子やばすぎ、この世界線のロリっ子怖いわ
そんなことを考えていたら隣から
「やっぱ面白いわwww最高www」
と、どこかで聞いたことのあるような声がした。
「おおおおおお前わぁぁぁ!」
「いやwwwその声で喋るのやめてwwwまじで笑いが止まんないwww」
そこには、ちょっと前に別れたばかりの転生バイトの子が立っていた。
こいつ、苦しんでる老婆を見て笑ってやがる!性根腐りまくってんなぁ!
笑顔がかわいいから余計に腹立つしよぉ。
「いやいやいやいやwwwこっち見ないでwww真顔で面白いとかある意味最強だよ!よかったじゃん!」
「お前、今全国のおばあさんを敵に回したからな」
本当に失礼極まりないやつだ。
ろくな死に方しないだろうなこいつ。
「あ、そうだった!業務だ業務。私、高齢者の介護するためにここに来てるわけじゃないんだよね」
「なにが介護じゃ」
「いや、米寿迎えたおばあちゃんと喋るのって介護以外の何物でもないでしょ」
「俺、米寿迎えてのぉ!?ババア超えてクソババアじゃねーか!」
米寿、すなわち88歳ということだ。そりゃ、走れねぇわな。
「まぁまぁ、落ち着いてって。それよりもなんで周りの人たちが自分のことを見えなくなったのか不思議じゃないの?」
あ、確かにそうだ。
なんかすげー自然な流れでここまで来たけど、都合よく起きたあの怪奇現象は意味わからんもんな。
異世界に来たら周りの視力が0.01でしたなんてこと冷静に考えたらおかしいわな。
「あー、言われないと気づかないのかー。これは重症だ。残念ながら重度の認知症ですね」
「やかましいわ。まぁ、冗談はこれくらいにして、なんで俺の姿がみんなから見えなくなったか教えてくれ!さっぱりわからない」
「わー冷めるわー。急に真面目っ!まぁいいや説明してあげる」
「おう、頼んだ」
「この世界では生まれた瞬間に二つ名が付けられるの。例えば『力自慢の農民』とか『俊足の剣士』とかね」
なるほど、よくある職業的なやつか。
『剣士』なら剣の技の習得が早いとか『魔法使い』なら魔法が自由に使えるとかそんな感じだろう。
ってことは俺にも二つ名があるってことだな。
ヲタ活というのはこういうときに役立つものらしい。
中高時代はラノベにアニメ、というド・INKYA☆LIFEを謳歌していた義男には理解が容易だった。
「でね、二つ名ごとに特有のスキルってのがあるんだけど、さっきの君が周りから見えなくなったのも一種のスキルなの」
お!?現実世界では『無職』だった俺だけどもしかして強い感じか!?
姿を消すとかよく考えればめちゃめちゃすごい能力じゃん!!
ここにきて一筋の光が見えた!
「俺の『二つ名』は何なんだ?」
義男はすごいスキルを習得できる二つ名だという確信から、すこし興奮気味に聞いた。
期待に胸が膨らむ。謎の緊張で体が熱くなり固唾を飲んだ。
彼女が口を開く。
「『EXCITING☆老婆』」
「···はい!?」
老婆になった弊害かな?耳が多分腐っているんだろう。そうじゃなきゃおかしい。
だって今「えきさいてぃんぐろうば」って聞こえたもん。
「だから、あなたの二つ名は『EXCITING☆老婆』。神があなたのために特別に作ってくれた新種の二つ名よ」
「神、ユーモア・マシマシか。そんなサービスいらねぇよ」
「いや、すごい二つ名だよ?何てったって神が直々に二つ名を作ることなんて滅多にないんだからね。実際『EXCITING☆老婆』のユニークスキル<徘徊>のおかげでここまで逃げて来れたでしょ?」
「スキル<徘徊>!?」
見てない間におじいちゃんおばあちゃんが徘徊して見つからないみたいなニュースたまにテレビで見るけどさ。それが極まって周りから見えなくなったってことか?
「『EXCITING☆老婆』のユニークスキルは全部おばあちゃんに関連するものだからね。頑張っていろんなスキルを習得してね」
「せめて強くあってくれ、『EXCITING☆老婆』ッ!!」
「まぁ、どんなスキルであれ君の使い方次第だよね。じゃあ、もうすぐシフト終わるから帰るわ」
シフトが終わったらすぐに帰宅。
JKらしいといえばJKらしい。
「あ、次にお前が来るのはいつなんだ?」
「うーん。転生の仕事はこれで終了だから会う機会なさそうかなー。まぁ次会う時を楽しみにしてるよ」
そういうと彼女の体は光を発し始めた。
「そうか。まぁ老婆なりに頑張るよ。あ、名前聞いてなかった!」
「あー、ウチの名前はプリン・カンテーン。プリンでいいよ」
「意外とすんなり名前を言ってくれるんだな」
「じゃーね、二つ名に負けないEXCITINGな活躍を期待してるよwww」
プリンは小馬鹿にしたような目つきで口元を手で隠し「ぷぷぷwww」と笑った。
すると、プリンの姿は光のなかで薄くなっていき、消えるようにいなくなった。
「はぁ、あいつとしゃべると疲れるな」
自分の二つ名に驚いたり、いちいちツッコミを入れたりと短い会話ではあったがとても疲れた。
コミュ障だから日頃からあんましゃべらないってのもあると思うけど。
「とりま、この世界の情報でも集めますか」
義男はとりあえず世間話をすることに決め、路地を出た。