第八話 合唱祭
こうして私たちは、ホールに着いた。
ホールに着くと、たくさんの生徒たちがいた。
先輩方もたくさんいて、私のことを知っている人は、少し怪訝そうな顔をしていたが、すぐにそれが笑みとなっていった。
もうこの感覚には慣れてきた。
ピアノ試奏をし、席に着く。
私を疑う者はほとんどいなかった。
「あきちゃん。楽しみだね」
「そうだね。頑張ろうね!」
いつの間にか私ももう溶け込んでいた。
私のクラスの順番は、二番目だ。
まず三組の合唱を聞く。
「きれいだねえ」
「そうだね、本当にうまいね。私たち大丈夫かな」
「マイナスなことは考えない方がいいよ!」
「そうだね!私たちは私たちなりの合唱をしよう!」
そうして、三組の合唱が終わってしまった。
『二組、お願いします』
「次は私たちだ」
音なしで近くの人とハイタッチをして、舞台に歩いて行った。
みんなが舞台上に上がった後で、合唱祭実行委員が言う。
『二組、課題曲―』
少しドキドキしてきている。
落ち着け、落ち着け。
『自由曲「明日へ」、指揮、橋本由紀さん、伴奏、藤本亜貴さん』
課題曲の指揮伴がお辞儀をし、それぞれの位置につく。
そして、手が上がる、手を振り出す、前奏が流れる。
よーし、頑張るぞー!
♪―何を目指しているのか~♪
ああ、楽しい、楽しい、このまま終わりたくない、もうずっと歌っていたい。
歌うのが気持ちいい、最高だお思えるのは、私がこの地球に生を受けたからだ。
ありがとう、神様。
そして、このホール響いて気持ちいいー!
そうしてどんどん曲が流れていく。
ああ、もうそろそろ曲が終わってしまう―!
歌うの楽しかった!ありがとう!
そして、課題曲が終わった。
伴奏者の交代をする。
今思い出したけど、今着てるの、スカートだったじゃん・・・。
着なれない服で椅子に座る。
指揮を振り始める。
前奏を始める。
♪―あーおいーかーぜにーふーかれてー♪
楽しい、気持ちいい。ここで弾けて良かった。
響くピアノの音、それがホール全体に流れて、包み込んでいった。
これを奏でていっているのが、私、この合唱を支えているのも、私。
楽しい、こんな機会を設けてくれて、ありがとう!
とにかく、のびのびと弾いている。
私って、最高!
間奏で、香華が少し私にウインクをしてきた。
私もちょっとウインクを香華に返した。
よーし、ラストスパート、がんばるぞー!
しばらく弾いていく。
もう終わる、さんざん練習してきた日々、そしてみんな、本当にありがとう。
ジャーンジャーンジャンジャーーン!
終わった!
立ち上がる、お辞儀をする、みんなが降りていくのを待つ。
うまく弾けたこともあり、スキップをしたい気分だった。
しかし、舞台上でそんなことダメなので、その気持ちをかみ殺してゆっくりと歩く。
その後、四組、一組の合唱を聴き、休憩に入った。
「楽しかったねー」
「そうだねー」
「気持ちよかった!」
いろんな声が聞こえてくる。
「あれ、藤本くん!どうしたの?その格好?」
話しかけてきたのは、一組の女の子だ。
同学年の人はやっぱり気づくんだなあ。
「いや、まあ、いろいろあってね・・・」
ふーん、と言い、少しまじまじと見て、言った。
「似合ってる!大丈夫よ!」
「いや、そうじゃなくって!」
そうこうしているうちに、二年生の開始のブザーが鳴った。
私たちは急いで戻った。