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いつのまにか女子扱いになっていったボクの中学時代  作者: 栄啓あい
第一章 中学一年生 一・二学期
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第六話 合唱祭前日

―合唱祭直前の練習


 私たちは、徐々に自分の歌へと仕上がっていく。


 私と、ソプラノとの交友も深まってきた。


 合唱祭実行委員がみんなに言う。


 「いよいよ明日は合唱祭です。みんなで今まで作り上げてきた絆を出し切りましょう」


 本当に絆というものは深まったのか?と疑問に思いつつも、とにかく明日が楽しみになってきた。


 明日はこの町で一番すごい響くホールでやる。


 あのホールで引いたら本当に気持ちいいだろうな。


 聴きに行ったことはあるが、弾いたことはない。


 だから、とてもわくわくしている。


 当社比一・五倍って感じ。


 「亜貴、明日ピアノ頑張ってね」

 「うん!」


 そう言って渥美さんは、微笑んでいた。


 私の嬉しさがすごく顔に出ていたのもあるかな。


 そんな時―


 「あきちゃん、ちょっといい?」


 香華に話しかけられた。


 なんか嫌な予感・・・。



 香華についていくと、ほとんどの女子が集まっていた。


 「亜貴ちゃんにちょっと頼みがあるんだけど・・・」

 「ん?なに?」

 「亜貴ちゃんにしかできない頼みなんだけど、何でもやってくれる?」

 「え?あ、うん」


 女子たちは見つめ合いながら言った。


 今の返事、YESって言わない方がよかったかも・・・?


 香華が続ける。


 「ほら、あきちゃん、ソプラノでしょう」

 「うん」

 「だから、みんなと同じように出てほしくて・・・」

 「・・・・・・」

 「だから、統一感を持たせた方がいいと思うの。」

 「・・・それで?」

 「ま、簡単にいうと、これを着てほしいの、これ」


 香華のさした指の先、それは、


 ―スカートだった。


 「え?あっっっ、えぇぇぇぇ!!??どういうこと?」

 「大丈夫。あきちゃんなら。かわいいし」

 「いろいろ女の子っぽいとこあるじゃん!」

 「そうそう!髪長いし、女の子顔だし、一人称私だし」

 「似合うって!見てみたいし!」

 「違和感ないよ!それに、何でもするって言ったわよね?」

 「いや、そういうことじゃなくって!」


 香華が圧をかけてこっちを見てくる。


 一瞬、夢かと思った。


 まどろみの中で、香華が近づいてくる。


 逃げようとしたら、思いっきりつかまれた。


 そして連れてかれた。


 「えっあっまって!」

 「何でもするって言ったわよね?」


 いつもの香華と違う。


 妙にゾワゾワするし・・・。

 

 

 香華に引っ張られたまま、学校の外へ出る。


 しばらくは少し沈黙がある。


 私が思い切って問いかけてみる。


 「もし着たとして、誰のを着るの?」

 「私の」

 「・・・・・・」

 「いいじゃない。大丈夫よ!」


 すると、誰かが声をかけてきた。


 「お、神田と藤本がデートしてる!もしかして、付き合ってたの?」


 四組の、原田裕太だ。ニヤニヤしながらからかってくる。


 「ちっ違うわよ!ただ私たちは話してただけで!」

 

 私は、こいつも相変わらず子どもだなぁ、と思いながら見ていた。


 しかし、いつのまにか二人だけで歩いていた。


 そして、香華が私の腕をつかんでいるので、誤解されても無理はない。


 香華は原田に対抗しながら、乱暴に私の手を振りほどいた。


 そして逃げるようにその場から立ち去った。


 もちろん、私も。


 そしてまた何事もなかったかのように、会話が戻る。


 「なんでそんなに嫌なの?」

 「いっいや、別に嫌ってわけじゃないんだけど・・・」

 「じゃあいいじゃない。先生にも言っちゃったしっ!」

 「え、えぇ、えぇぇぇぇ!!??」


 よくも勝手なことを!と思ったが、なぜか反論できなかった。


 「親がなんていうかなぁ・・・」

 「私が説得しておくわ!」

 「っっ!」


 そんなことを話していたら、香華の家に着いた。


 「じゃ、持ってくるわね!逃げないでよ!」


 そう言って家の中に入っていった。


 それと同時に、私の荷物も逃亡防止に持っていかれた。


 

 香華が戻ってきた。手に持っている袋の中には例のものが入っていた。


 「もともと髪長いんだから、そっちは大丈夫でしょ。一応ヘアピンだけ貸してあげる。じゃ、親には言っておくわ。がんばってね。じゃねー」


 そう言って、強引に別れた。


 合唱祭前日でうきうきしていた気持ちは、ほとんどかき消されてしまった。



 帰ってきて、一回香華に電話した。


 「もしもし」

 『もしもし』

 「藤本亜貴です」

 『あきちゃん!どうしたの?』

 「本当にやるの?あれ」

 『もちろん』

 「なんか親がすごい賛成してるんだけど・・・」

 『うん。だってちゃんと言ったもん』


 香華は人ごとのように素っ気なく答えている。


 ため息交じりに私は続ける。


 「それで、朝から着てくの?ホール着いてから?」

 『あきちゃんもちゃんと同意してるじゃない!もちろん朝からだけど』

 「あっっそう・・・」

 『まあ大丈夫よ!きっと!じゃ、また明日ねー。楽しみだなぁ。バイバーイ』

 「えっあっうん」


 そう言うとぷつりと電話が切れ、電話口からはツーツーという音しか聞こえなくなった。

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